「いや、だからってなんでウチなの。
というか、うちパソコンだし、ゲーム機一つしかないし」
当然の如く、廊下を進む五百城を追いかける。
すると五百城が、黒いショルダーバックを叩いてみせた。
「デバイス持参してますんで」
「用意よすぎ!! い、いやでもねえ」
こんな深夜に男子と2人でゲームなんて、意識されていないとしてもこちらが緊張するんですけど。と身構えていると、五百城がこちらへとくるりと踵を返した。
「もしかして、ログインするって嘘ですか。
適当なこと言って追い返した後、同居解消して、ペテルギウス抜けるとか、他の星に移住するとか?
ゲーム辞めるとか考えてるんですか」
五百城の視線が氷のように冷たい。
その瞳に見つめられるだけで心の奥まで凍りつかされそうだった。
「やめたりしない。だって、私にとって、ここはすごく大事な場所だから」
子供の頃から、そうだった。
学校の中では、父の理想の娘らしく真面目に生きて、
社会に出ても周りの目を気にして、いつだって偽物の笑顔を浮かべて、みんなに合わせている。
私が白枝燕じゃない人間になれるのは、ゲームだけ。
ゲームの中だけは、自分らしく生きられる。
ここだけなのだ、私が私らしくいられる場所は。
だから、……失いたくない。
