三輪菜摘がプラスティックのカップに入ったアイスコーヒーを啜る。

「わかる。同性だと思っているから、話せることってあるしね」
 身体の悩みや恋愛話、男性や彼氏に話せない失敗談をあけすけにムギちゃんに話していた。それは同性だと思っていたからだ。男とわかってたら生理痛の辛さを語るなんて失態、絶対犯さなかった。むしろ今まで話した内容を、どうにかムギちゃんの脳内からデリート出来ないだろうか。

「でもさ、いきなり無視とかはできなくない? 
 今まで親友だったわけだし、むしろ今の彼氏のグレッグよりよっぽど理解してるでしょ。ここはおおらかな気持ちで受け入れるってのもありだと思うんだ」

 “おおらか”とは、の意味を辞書で引いて調べたくなる。
 果たして私にそのおおらかな感情で、”五百城麦”を受け入れることができるだろうか。




* * *


 お昼ご飯を食べ終えて職場に戻る途中、「あ、白枝さん?」と声をかけられて立ち止まる。気さくな笑顔を浮かべるその顔に見覚えがあった。
 
「……峯岸さん」

 名前を思い出すまでに時間がかかった。フルネームを尋ねられたら答えられない自信がある。

 三輪菜摘が峯岸を頭の先からつま先までサーチしたあと、「誰なの? ねえあのイケメン誰なの?」と興味深げに尋ねた。そんな菜摘を吉野遥が、聖女の邪魔をする悪役令嬢の友人Aかのごとく、その場から退散させる。