五百城は、とんっと、靴の先を玄関の上に落とした。

「隣?」と、彼の言葉を反芻する。
 
「303です。ココア。ご馳走様でした」

 303号室なら、本当に壁一つ隔てたお隣さんだ。
 まさかこんなにも近い位置にゲームの住民がいたとは。
 
「お隣さんだったんだ」

「あの……、変な人だって勘違いして失礼なこと言ってすみませんでした」

「いいよ、いいよー」と、手のひらをひらひらと揺らす。
 もうそんなことは過去のことだ。
 気にすることなど何もないのだ。同じ星に棲む友よ。

「それから……、僕の名前は、五百城 麦(いおき むぎ)です。
 MPDOでの、プレイヤー名は”ムギ”です。では失礼します」

 パタンと閉じられた扉の前で、ひらひら揺らしていた手をぎゅっと握る。

「……ん? 今なんて言った?」
 
 彼のセリフをもう一度、思い起こした。 

「プレイヤー名は……ムギ。……ムギ??」


 私のマンションの隣に住んでいるのは、ダンジョンの同居人である”ムギちゃん”だった。