「そ、そっかー。じゃチュンカのことは、わかんないよねえ」

 確かに黒のパーカーに黒のジーンズ姿という出立ちにはコスプレ要素は全くない。割と五百城のようにコスプレしてない勢は会場にいたので、みんなと同化していたんだろう。だからか店の外で出会ってから帰るまで、五百城の存在感は皆無だった。

 部屋の空気がだいぶ暖かくなってきたので、コートを脱いで膝にかけた。三つ編みにした髪の先を後ろに流す。 

「虞美麗ですよね。ゲームのFIRIOのプレイヤーの」 

 と、独り言のような声が戻る。

「そうなの! ムギちゃ……えっと、同居人がめっちゃ好きで。
 ネットで服の型探して、作っちゃったんだ」

「手作りですか?」

「買ったら高いから。一回しか着ないし。
 コスパを考えたら、手作りしか勝たんでしょ」

 衣装を見せびらかすように、くるっとその場で舞って見せた。チャイナドレスの裾がフワッと柔らかく広がる。

「あ、見せないでいいです」

 拒否を示す塩な返事が戻り足を止める。
 上がったテンションを無理やり落として、コートを膝に戻して床に座った。

「この歳でコスとか痛いよね……。うん。わかってるんだ」

「ですね」

 そこは、ココア一杯分ぐらいのリップサービスはないのかな。

「で、でもね。同居人が喜ぶかなーって思って、
 張り切っちゃったんだよね! わかる? この愛の深さを」

「ですね」