「なんで、あなたをつけなくちゃならないんですか?」
「電車の中で、ずっと見てきましたよね」
「ち、違うんです。六本木で見かけて」
「見かけて?」
サッと青年はこちらから逃げる体勢に入る。
「電車に乗る前から、つけて来たんですか?」
「じゃなくて、だからその、会いましたよね? お店で!」
話せば話すほど、どんどん怪しい女になっていっている。
私への不信感を肌にひしひしと感じた。
「あなたに会った覚えありませんが……」
訝しげな顔をする青年に向かって駆け寄った。
すると、青年はさっとスマホを取り出す。
赤いマークの表示がチラリと見えた。そのマークはよく見るやつ。
それは決して押してはならない緊急時のやつである。
「ま!待って!!」
彼が指先をSOSと表示されたマークをスライドする前に、ラババンのついた手首を掴んだ。
大急ぎで彼の目の前に掲げる。
「こ、これ見て!見てください!」
「は、離してください!」と、彼は悲鳴のように叫んだ。
「ペテルギウス。 10・31、5周年!」
こちらも負けじと刻まれた文字を大声で読み上げる。
「M P D Oのペテルギウスの住民たち!
オフ会! あなたもいましたよね?」
