もうムギちゃんのこと考え出したら、幸せなのでどんな冷たい視線だろうと平気だ。スキップし出しそうな気持ちを押し殺して、マンションのゲートをくぐる。すると3階のエレベーターの踊り場で、「あの」と声がかかった。
 
 声をかけてきたのは、同じくエレベーターを降りた青年だ。近くにいた時も気づいていたが、ヒールを履いた私よりもずっと背が高い。

「さっきから……、家まで着いてくるとか、なんなんですか?」

 男の口から侮蔑のこもった声が返ってきた。

「……は? いや、私、ここの住人ですが」

 青年の言葉に思わず、冷たい言葉は口から飛び出した。
 だが私以上に彼の言葉は冷たいものだった。

「白々しいですね。ゲートでオートロック解除されるの待ってませんでした?」

「だ、だって先に人がいたら、待ちますよね」

 確かに待っていたけれども。
 鍵を出すのが面倒だったけども。
 完全無視男に指摘をされてしまい、慌てて反論をする。
 
 そんなふざけた回答など0点だと言わんばかりに軽蔑の視線を止めようとしない。さらに仁王立ちになり、私を見下ろすようにふんぞり返った。 
 
「電車の中からつけてましたよね」