「あの……源さん。私の同居人、見ました?」

 知っているメンバーに会えている。
 ということはムギちゃんも来ているのではと、期待するが。

「俺は女子に全員声をかけてるから見てないな!と、オクラ大臣が自信たっぷりに告げた。



***


 結局、ムギちゃんからの返信もなく会えずじまいで、解散の流れになった。
 源さんやキングたちに、さよならの挨拶をして、ゲームの中のリアルな住民たちと別れる。彼らは楽しげな空気を周囲に振り撒きながら、六本木の高速下の通りを歩いて行った。
 地下鉄に乗り込んで、深く息を吐きだす。
 ひと仕事を終えたかのような疲労感に襲われている。
 知らない人と話しすぎたせいだろうか。
 ――いや、リアルでは知らない人だけれど、ゲームの世界ではずっと一緒にいた人たちだ。

 そんな不思議な世界でのおしゃべりは、どこかリアルなのにリアルじゃないようなふわふわとしていた。ゲームの中の方がよほどリアルな気がするぐらい、夢の中のように、いろんな感情が混ぜこぜになって、マーブル状に弧を描いている。

 思い出し笑いで口元を緩ませていたら手すりを掴む男性のリュックに、肘がぶつかってしまった。
 
「あ、すみません」

 反射的に謝ると、ほんの少しだけ頭が動いて会釈を返された。ふと見ると、男性の手首に私がつけているものと同じラバーバンドがついている。「あっ」と声を漏らすと、男は、黒縁のメガネ越しに、ぐるりっと大きな黒い瞳を動かした。目にかかるほど長い黒髪の隙間から覗く瞳はどこかで見た気がする。

 あ、そうだ。
 店に入ろうとした時に階段から降りてきた男子だと記憶を戻す。

 そういえば、プレイヤー名を聞いていない。 
 どっかでパーティー組んだことあるだろうか。 
 結局電車で一緒になった青年に声をかけることはできず。
 自分のコミュ力の無さを悔やみつつ、人の流れに乗りホームへと出た。地上へと出ると、冷たい風が肌を撫でた。

 コートの下は薄っぺらい服だけだから、余計に寒空が身に沁みる。
 温かいお風呂にたっぷり浸かって、可愛い同居人を愛でよう。

「早く、会いたいな。ムギちゃーん」

 つい鼻歌が出てしまう。上機嫌で家へと向かっていると、信号待ちに先ほどの黒髪男子がいた。鼻歌が耳に入ったのか、私から半歩離れた位置へ、すっと移動する。

 まさか聞こえてないよね。イヤフォンしてるし。