「で、烈火ちゃんは? 六本木とか?
 育ちが良さそうだから銀座って感じもする。指名するからさ、店教えてよ」

 と、だらしなくテーブルに上半身をへばりつける。
 甘えたような表情は、なんとも街を守るヒーローらしからぬ態度だ。
 普段は地味な服装でメイクも薄いが今日はコスプレをするため派手なメイクをしている。
 そのせいだろうけれど、この男性は、変な勘違いをしているらしい。

「スパイダーマンがお店に来たら、みんな驚きますね」と笑って誤魔化した。

「この格好でもいいけどさ、普段はスーツ着てるんで。でも烈火ちゃんの要望とあれば、スパイダーマンで駆けつけますよ」

 二の腕の筋肉を見せつけるようにポーズをとる。

「おいおいー。オクラ大臣、何、若い子、口説いてんんだよ」

 顎に髭を蓄えたふくよかな男性が近づいてきた。
 船長の衣装を着た大男はぷっくりと突き出したお腹が張り出している。 
 そんな大男が、オクラ大臣こと、スパイダーマンの頭を叩いた。

「源さん。違うって、烈火ちゃん! 烈火ちゃん!」と、私を睨んだ源さんの顔がたちどころに緩む。

「烈火……?」

 その瞳が潤むのを見て、ちょっと嬉しくなった。源さんはゲームを始めた当初からお世話になっていた人で師匠のようなものだ。チュートリアル中、周りとのレベル差に心折れかけたときに、ペテルギウスに来ないかと誘ってくれたのも源さんだった。