峯岸の沈黙は父との密約があったことを暗に告げるようなものだ。菜摘は、さっきのキュンを返せとでもいいたげに不機嫌そうに眉を顰めている。
「燕さんのおっしゃる通り、あなたのお父様に取り入りたい気持ちはあったかもしれない。でも、決して利用しようと思って燕さんと付き合っていたわけじゃない……、あなたが好きなんです」
峯岸は、いまだかつてない嘘をついた。
一度たりともいわなかった2文字の言葉はどこまでも嘘の匂いを纏っている。本物に聞こえるのは言った本人だけだと気づかずに、峯岸は「あなたとの関係を終わりになんてしたくないんです」と悲しげな表情を作った。
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「あの男、絶対、女いる」と菜摘がライチサワーを半分ほど飲み干したところで、本音を発した。
菜摘と遥にどういう状況か説明してと迫られたので、会社から最も近い居酒屋へと直行して、今までの経緯を話したところだった。
「燕ならカモにできると思って近づいてきたんだって、あーいうのは他に本命がいるはず。私の勘がそう囁いてる」
「出世したいなら、燕パパに直接行っちゃえばいいのに」
「それな」と菜摘と遙が峯岸と父とのBL展開を語り出す。
それは流石にキモい絵図だなぁと、ささみの梅あえをつまみつつ想像した。
