思えば肩がぶつかるほどの距離で峯岸と歩いたことはなかった。
ムギくんとは、わりと距離近いのに……。
五百城との一緒にいるときは、彼の香りがするほど近くにいる。そのせいかいつも嗅いでいる香りとは異なるムスクの香りは、少し違和感を感じる。
旅館内にある料亭へと入ると、父もまた温泉後のくつろいだ格好だった。
「峯岸くん。さあ、席に座りたまえ」と、娘の姿が視界に入っているはずなのに、真っ先に峯岸へと話しかけた。
父のあからさまな態度に失望めいた感情を抱く。
わかっていたことだ。父にとっては、私はただの手駒の一つでしかない。
久々の再会であっても、わざわざ話しかける必要も、機嫌を取る必要もない”モノ”なのだ。
わかっていたけれど、久々に目の当たりにすると堪えるものだ。
「あれえ、燕ちゃんかい?
綺麗になってすっかり大人の女性だねえ」
橋本会長とは幼い頃に面識があったらしく、「あんなに小さかったのにもう結婚する年齢になったのかい。ほら、橋爺のこと覚えてるかい」などと、父の代わりを務めるかのように、優しい声をかけてくれる。
そして相変わらず父は、溺愛する峯岸の肩を抱き、酒を水のごとく飲み干していく。久々に聞く父の喉元から出てくる言葉は、
峯岸くんはいい男だろう?
峯岸くんのような男と付き合うと視野が広がるだろう。
峯岸くんは仕事の時も抜かりがないがデートでもそうだろう。
峯岸くんは……と、
ムギくんとは、わりと距離近いのに……。
五百城との一緒にいるときは、彼の香りがするほど近くにいる。そのせいかいつも嗅いでいる香りとは異なるムスクの香りは、少し違和感を感じる。
旅館内にある料亭へと入ると、父もまた温泉後のくつろいだ格好だった。
「峯岸くん。さあ、席に座りたまえ」と、娘の姿が視界に入っているはずなのに、真っ先に峯岸へと話しかけた。
父のあからさまな態度に失望めいた感情を抱く。
わかっていたことだ。父にとっては、私はただの手駒の一つでしかない。
久々の再会であっても、わざわざ話しかける必要も、機嫌を取る必要もない”モノ”なのだ。
わかっていたけれど、久々に目の当たりにすると堪えるものだ。
「あれえ、燕ちゃんかい?
綺麗になってすっかり大人の女性だねえ」
橋本会長とは幼い頃に面識があったらしく、「あんなに小さかったのにもう結婚する年齢になったのかい。ほら、橋爺のこと覚えてるかい」などと、父の代わりを務めるかのように、優しい声をかけてくれる。
そして相変わらず父は、溺愛する峯岸の肩を抱き、酒を水のごとく飲み干していく。久々に聞く父の喉元から出てくる言葉は、
峯岸くんはいい男だろう?
峯岸くんのような男と付き合うと視野が広がるだろう。
峯岸くんは仕事の時も抜かりがないがデートでもそうだろう。
峯岸くんは……と、
