残念だが、彼らの願いは叶わない。
現実は問題が起こる時には立て続くけに起こり、以前よりも複雑になって現れるものだ。
父親の死後、当主となったライオネルの年齢は14歳。後ろ盾になるから利益をよこせと、ブルナー領を狙う者が溢れ湧いた。当然ライオネルは当然全てを突っぱねた。
要求が通らないならば嫌がらせを始めた。権力や武力では絶対勝てない。ならば間接的に追い詰めればいいと、彼らが標的にしたのはアンジュであった。
『あの白い髪に赤い目…!父親が死んだ途端に変貌を遂げたのだ!災いの兆候に違いない!』
『今ブルナー家に関われば化け物娘に財貨を奪われる羽目になる。あんな家と関わるものじゃぁない』
家族を陥れることで、周囲との関係を断たせブルナー家を孤立させようとした。
身体能力までポエテランジュの影響を受けていと知らない彼ら。表面、つまり容姿の変貌のみをひたすらに擦る浅はかな悪口であるが、嘘や噂はすぐに広がる。話の信憑性など気にせず、強い言葉が人々に根付く。嘘と誇張で生み出された"化け物娘"は、どこにいても、どんな場所でも嫌われることになった。
『人の癖に奇妙だ』『化け物』『気味が悪い』『不幸を呼ぶ』『宝を狙う卑しい娘』『大精霊の力で人を誑かす』
容赦なくアンジュを拒否した。噂を信じ、恐怖した者から石を投げられる時すらあった。
家族はアンジュを攻撃する人らと戦ったものの、あちらこちらから湧いて出る。キリがない。彼らは怒りに震えたが、アンジュは誰よりも平然としていた。いや、するようになった。遠ざかる人はしょうがない。恐怖はコントロールできない。悪評も気にしなければ、ただの空気の振動。慣れてしまえば気にならない。石は痛いが、大精霊の魔力副作用で傷は瞬く間に治る。注射を受けるように一瞬痛いだけ。
事なかれ主義となったアンジュ・ブルナー。
それでも許せなかったのは、親しく接してくれる人たちにまで被害が及ぶことだ。
特に家族と親友たち。学校ではアンジュの仲間だといじめまがいの扱いを受け、外出先で一緒に後ろ指を刺される。職場や貴族の集まりで不遇な扱いを受ける。
それでも不当な扱いの原因であるアンジュを彼らは愛し続け、彼女を傷つける人とは親友だろうと婚約者だろうと容赦なく縁を切った。
アンジュには、それがたまらなく申し訳なく、辛かった。
アンジュ自身、備わった力は素晴らしいと考えている。大精霊の神秘を得てからの方が、見えて、感じられる世界は格段に広がった。輝きを増した。なにより愛おしい精霊たちに似た容姿は大好きだ。
しかし恩恵を受けたのはアンジュだけである。得た力を否定しないが、自分が側いると大切な人たちに迷惑をかけてしまう。
これからどうすべきか。自分はどう立ち回るべきか。
((私は1人で生きていけるようにならないといけないんだ))
悲しいかな。まだ子供がそう決意してしまうほど、世界は冷たいものになってしまった。
一度決めたらやり遂げるのがアンジュだ。
彼女はさらに研鑽を積み続けた。五感を自由に調節し、魔力も手足のように扱えるまで、毎日励み続けた。
1人で生きねばならない。どんな難題も、自分の力だけで解決しなければならぬのだから。
鍛えて鍛えて、鍛え続けて。
月日は流れ、15歳の春。
兄姉たちが精霊のサポートを受けてようやくついていけるレベルにまで成長したアンジュは、軍の試験を無事突破。
迎えた軍学校での生活。予期せぬ初恋を楽しみながら、アンジュは地道に訓練や勉学に励む。驚異的な身体能力と戦闘技術を周囲に見せびらかすことをせず2年間を終える。
『お前みたいなのがブルナー家なら、他も高が知れているな』
予定であった。学年最後の卒業試験で、同期がアンジュに喧嘩を売るまでは。
軍学校に入学しても化け物娘は変わらない。同期生には侮られ、わざわざ貶める発言を繰り返していた。特にうるさかったのはブルナー家に次ぐ優秀な精霊遣い一族、その跡取り息子であった。すでに精霊2体と契約できるほど能力が高く、魔緑量も大きめの彼は、ブルナー家出身でありながら遣い手の才能がないアンジュを馬鹿にした。悪評を信じきっていたのもあるが、執拗に比較し、逐一苔下ろした。軍学校最後まで態度は変わらず。むしろ最終試験も楽勝だと余裕であった彼は、慢心が拡がり、とうとう家族の悪口を言い出した。周りも笑っている。
実害がなければ全てを水に流すアンジュだったが、家族を馬鹿にされては黙っていられなかった。
『精霊遣いでありながら、彼らの実力が分からぬか。自ら無能だと証明したな?死ぬ前に辞めてしまえ。プライドが邪魔をするなら、私が引導を渡してやろう』
下に見ていたアンジュに噛みつかれ、血が頭に上った同期たちは一斉に囲う。総勢20人。いつもは見て見ぬ振りをする他の学生らも、流石にアンジュに部が悪いと喧嘩を止めようとした。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…。
殺気立つ21人と、喧嘩を止めようとした学生らの耳に謎の音が聞こえてきた。手のひらを叩くよいな軽い音。
『いやぁ今年の新人は熱心だなぁ』
拍手をしながら現れたのは、のちのアンジュの上司となるウィリアム・スミスである。
日頃から精霊たちにも協力してもらい、あらゆる情報を集めているウィリアム。アンジュの風変わりな容姿はポエテランジュの魔力暴走によるものだと聞いた彼は、他にも影響を受けたのではないかと考えた。アンジュには特異的な力が備わっている可能性があると、ずっと探りを入れていたのだ。
本人に直接確認したかったが、アンジュは偶にしか外出しなかったため、彼女の姿を認めたのは軍学校の入学式。一目見て、彼女が隠している膨大な魔力と、大精霊の気配を感じったウィリアムは確信を得た。
((アンジュ・ブルナーは大精霊の力、または近いものを持っている))
最重要戦力だ。西の守りの強化だけでなく、近年不穏な動きをする隣国への牽制にも役立つと、是非とも自班に引き入れたかった。
引き抜く決定的な理由があればと、引き続き情報を探るウィリアムであったが難航した。
アンジュは尻尾を掴ませない。目覚ましい活躍があれば楽だったが、軍学校でアンジュは至って普通に過ごしていた。手だれの兵士もへばる訓練も平然と過ごし、至る所で意図的に手を抜く様子は見てとれたが、大精霊の力を持つ確実な証拠ではない。
((なぜ力を隠すのか!))
荒ぶりながら、ウィリアムは必死に情報をかき集めた。
卒業試験間近でようやく"大切な人たちのために力を発揮しない"とわかったウィリアムは、ならば彼らに許可を取り、アンジュに力を発揮してもらおうと奔走した。兄姉、親、祖父母、ポエテランジュ家族、親友、師匠…彼女が大事とする者たちを巡り歩き、署名を集めた。
卒業試験当日に、ようやく全ての許可を集めたウィリアムはツキヨを伴い、アンジュに会いに来たのだ。
すると丁度同期に囲まれている。
ウィリアムはほくそ笑んだ。真価を発揮させる良い機会だと。
軍学校校長の承諾も得た彼は、偶然居合わせた中央兵士をも巻き込み、新人たちに追加試験を提案した。
グループ戦での決着。中央隊員と新人20人対、ウィリアムとアンジュ。負けた方は1学年生からやり直し、ウィリアムは自身の退役を賭けた。
『まぁ負けるわけないよな。21人!赤ちゃんをでも勝てる。俺たちに真の強者を教えてくれよ?なぁ成績優秀者諸君』
煽られた同期はもちろん追加試験実施に乗った。あまりにも条件が変だと警戒を強めたアンジュだったが、彼が集めた署名を認め、追加試験を受ける事にした。
審判はツキヨが務めた。
学友が見守る中、追加試験開始の号令がかかった。
結論から言えばウィリアムとアンジュ、いやアンジュの圧勝であった。
そもそも勝負にすらなっていなかった。
号令ととともに、アンジュは魔力の1割を解放。大精霊級の魔力と気配を前に、相手側の精霊や獣たちは動けなくなった。
つかさずウィリアムが空気の流れを操作。音が聞こえないように魔術を施す。指示が伝わらないと一瞬、動きを止めた中央兵士の背後をとったアンジュは強烈な足蹴りをかまし、彼の意識を消失させた。
司令塔もパートナーも動かなくなり、泡めふためく同期たちをアンジュは素早く動きを封じていった。
10分にも満たない対戦であった。
完敗した哀れな同期たち。
ペナルティに従い軍学校に残った者もいれば、負けを認められず辞める者もいた。
誉高い軍学校の歴史の中で、トップ3に入る事件であったが追加試験に参加した同期には軍上層部や上層階級出身者がいた。子が犯した恥を隠すために学校に圧力がかかり、在校生は追加試験について今後一切他言しないよう厳戒令が引かれたのだ。
よって、アンジュと関わりのない他の部署の兵士や後輩たちが追加試験について知る機会が失われ、ただ曖昧なアンジュの評価だけが広まるばかりであった。
今回の特別訓練は、実質4年前の再現である。
違うのはアンジュの能力がさらに上がったこと。100人の訓練参加者など諸共しない。
「そりゃ大精霊の魔力を浴びて生きてる上、容姿が変わってるんだもんなぁ。普通の身体能力してる可能性の方が低いか」
アンジュは中庭を囲む結界を展開した。ライン越えで敗北認定されないよう内側に張ると、それを足場に空中を跳ね回る。
アンジュを必死に目で追っていたエゼリオはひっそり目を回した。
現実は問題が起こる時には立て続くけに起こり、以前よりも複雑になって現れるものだ。
父親の死後、当主となったライオネルの年齢は14歳。後ろ盾になるから利益をよこせと、ブルナー領を狙う者が溢れ湧いた。当然ライオネルは当然全てを突っぱねた。
要求が通らないならば嫌がらせを始めた。権力や武力では絶対勝てない。ならば間接的に追い詰めればいいと、彼らが標的にしたのはアンジュであった。
『あの白い髪に赤い目…!父親が死んだ途端に変貌を遂げたのだ!災いの兆候に違いない!』
『今ブルナー家に関われば化け物娘に財貨を奪われる羽目になる。あんな家と関わるものじゃぁない』
家族を陥れることで、周囲との関係を断たせブルナー家を孤立させようとした。
身体能力までポエテランジュの影響を受けていと知らない彼ら。表面、つまり容姿の変貌のみをひたすらに擦る浅はかな悪口であるが、嘘や噂はすぐに広がる。話の信憑性など気にせず、強い言葉が人々に根付く。嘘と誇張で生み出された"化け物娘"は、どこにいても、どんな場所でも嫌われることになった。
『人の癖に奇妙だ』『化け物』『気味が悪い』『不幸を呼ぶ』『宝を狙う卑しい娘』『大精霊の力で人を誑かす』
容赦なくアンジュを拒否した。噂を信じ、恐怖した者から石を投げられる時すらあった。
家族はアンジュを攻撃する人らと戦ったものの、あちらこちらから湧いて出る。キリがない。彼らは怒りに震えたが、アンジュは誰よりも平然としていた。いや、するようになった。遠ざかる人はしょうがない。恐怖はコントロールできない。悪評も気にしなければ、ただの空気の振動。慣れてしまえば気にならない。石は痛いが、大精霊の魔力副作用で傷は瞬く間に治る。注射を受けるように一瞬痛いだけ。
事なかれ主義となったアンジュ・ブルナー。
それでも許せなかったのは、親しく接してくれる人たちにまで被害が及ぶことだ。
特に家族と親友たち。学校ではアンジュの仲間だといじめまがいの扱いを受け、外出先で一緒に後ろ指を刺される。職場や貴族の集まりで不遇な扱いを受ける。
それでも不当な扱いの原因であるアンジュを彼らは愛し続け、彼女を傷つける人とは親友だろうと婚約者だろうと容赦なく縁を切った。
アンジュには、それがたまらなく申し訳なく、辛かった。
アンジュ自身、備わった力は素晴らしいと考えている。大精霊の神秘を得てからの方が、見えて、感じられる世界は格段に広がった。輝きを増した。なにより愛おしい精霊たちに似た容姿は大好きだ。
しかし恩恵を受けたのはアンジュだけである。得た力を否定しないが、自分が側いると大切な人たちに迷惑をかけてしまう。
これからどうすべきか。自分はどう立ち回るべきか。
((私は1人で生きていけるようにならないといけないんだ))
悲しいかな。まだ子供がそう決意してしまうほど、世界は冷たいものになってしまった。
一度決めたらやり遂げるのがアンジュだ。
彼女はさらに研鑽を積み続けた。五感を自由に調節し、魔力も手足のように扱えるまで、毎日励み続けた。
1人で生きねばならない。どんな難題も、自分の力だけで解決しなければならぬのだから。
鍛えて鍛えて、鍛え続けて。
月日は流れ、15歳の春。
兄姉たちが精霊のサポートを受けてようやくついていけるレベルにまで成長したアンジュは、軍の試験を無事突破。
迎えた軍学校での生活。予期せぬ初恋を楽しみながら、アンジュは地道に訓練や勉学に励む。驚異的な身体能力と戦闘技術を周囲に見せびらかすことをせず2年間を終える。
『お前みたいなのがブルナー家なら、他も高が知れているな』
予定であった。学年最後の卒業試験で、同期がアンジュに喧嘩を売るまでは。
軍学校に入学しても化け物娘は変わらない。同期生には侮られ、わざわざ貶める発言を繰り返していた。特にうるさかったのはブルナー家に次ぐ優秀な精霊遣い一族、その跡取り息子であった。すでに精霊2体と契約できるほど能力が高く、魔緑量も大きめの彼は、ブルナー家出身でありながら遣い手の才能がないアンジュを馬鹿にした。悪評を信じきっていたのもあるが、執拗に比較し、逐一苔下ろした。軍学校最後まで態度は変わらず。むしろ最終試験も楽勝だと余裕であった彼は、慢心が拡がり、とうとう家族の悪口を言い出した。周りも笑っている。
実害がなければ全てを水に流すアンジュだったが、家族を馬鹿にされては黙っていられなかった。
『精霊遣いでありながら、彼らの実力が分からぬか。自ら無能だと証明したな?死ぬ前に辞めてしまえ。プライドが邪魔をするなら、私が引導を渡してやろう』
下に見ていたアンジュに噛みつかれ、血が頭に上った同期たちは一斉に囲う。総勢20人。いつもは見て見ぬ振りをする他の学生らも、流石にアンジュに部が悪いと喧嘩を止めようとした。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…。
殺気立つ21人と、喧嘩を止めようとした学生らの耳に謎の音が聞こえてきた。手のひらを叩くよいな軽い音。
『いやぁ今年の新人は熱心だなぁ』
拍手をしながら現れたのは、のちのアンジュの上司となるウィリアム・スミスである。
日頃から精霊たちにも協力してもらい、あらゆる情報を集めているウィリアム。アンジュの風変わりな容姿はポエテランジュの魔力暴走によるものだと聞いた彼は、他にも影響を受けたのではないかと考えた。アンジュには特異的な力が備わっている可能性があると、ずっと探りを入れていたのだ。
本人に直接確認したかったが、アンジュは偶にしか外出しなかったため、彼女の姿を認めたのは軍学校の入学式。一目見て、彼女が隠している膨大な魔力と、大精霊の気配を感じったウィリアムは確信を得た。
((アンジュ・ブルナーは大精霊の力、または近いものを持っている))
最重要戦力だ。西の守りの強化だけでなく、近年不穏な動きをする隣国への牽制にも役立つと、是非とも自班に引き入れたかった。
引き抜く決定的な理由があればと、引き続き情報を探るウィリアムであったが難航した。
アンジュは尻尾を掴ませない。目覚ましい活躍があれば楽だったが、軍学校でアンジュは至って普通に過ごしていた。手だれの兵士もへばる訓練も平然と過ごし、至る所で意図的に手を抜く様子は見てとれたが、大精霊の力を持つ確実な証拠ではない。
((なぜ力を隠すのか!))
荒ぶりながら、ウィリアムは必死に情報をかき集めた。
卒業試験間近でようやく"大切な人たちのために力を発揮しない"とわかったウィリアムは、ならば彼らに許可を取り、アンジュに力を発揮してもらおうと奔走した。兄姉、親、祖父母、ポエテランジュ家族、親友、師匠…彼女が大事とする者たちを巡り歩き、署名を集めた。
卒業試験当日に、ようやく全ての許可を集めたウィリアムはツキヨを伴い、アンジュに会いに来たのだ。
すると丁度同期に囲まれている。
ウィリアムはほくそ笑んだ。真価を発揮させる良い機会だと。
軍学校校長の承諾も得た彼は、偶然居合わせた中央兵士をも巻き込み、新人たちに追加試験を提案した。
グループ戦での決着。中央隊員と新人20人対、ウィリアムとアンジュ。負けた方は1学年生からやり直し、ウィリアムは自身の退役を賭けた。
『まぁ負けるわけないよな。21人!赤ちゃんをでも勝てる。俺たちに真の強者を教えてくれよ?なぁ成績優秀者諸君』
煽られた同期はもちろん追加試験実施に乗った。あまりにも条件が変だと警戒を強めたアンジュだったが、彼が集めた署名を認め、追加試験を受ける事にした。
審判はツキヨが務めた。
学友が見守る中、追加試験開始の号令がかかった。
結論から言えばウィリアムとアンジュ、いやアンジュの圧勝であった。
そもそも勝負にすらなっていなかった。
号令ととともに、アンジュは魔力の1割を解放。大精霊級の魔力と気配を前に、相手側の精霊や獣たちは動けなくなった。
つかさずウィリアムが空気の流れを操作。音が聞こえないように魔術を施す。指示が伝わらないと一瞬、動きを止めた中央兵士の背後をとったアンジュは強烈な足蹴りをかまし、彼の意識を消失させた。
司令塔もパートナーも動かなくなり、泡めふためく同期たちをアンジュは素早く動きを封じていった。
10分にも満たない対戦であった。
完敗した哀れな同期たち。
ペナルティに従い軍学校に残った者もいれば、負けを認められず辞める者もいた。
誉高い軍学校の歴史の中で、トップ3に入る事件であったが追加試験に参加した同期には軍上層部や上層階級出身者がいた。子が犯した恥を隠すために学校に圧力がかかり、在校生は追加試験について今後一切他言しないよう厳戒令が引かれたのだ。
よって、アンジュと関わりのない他の部署の兵士や後輩たちが追加試験について知る機会が失われ、ただ曖昧なアンジュの評価だけが広まるばかりであった。
今回の特別訓練は、実質4年前の再現である。
違うのはアンジュの能力がさらに上がったこと。100人の訓練参加者など諸共しない。
「そりゃ大精霊の魔力を浴びて生きてる上、容姿が変わってるんだもんなぁ。普通の身体能力してる可能性の方が低いか」
アンジュは中庭を囲む結界を展開した。ライン越えで敗北認定されないよう内側に張ると、それを足場に空中を跳ね回る。
アンジュを必死に目で追っていたエゼリオはひっそり目を回した。
