海と並んで帰ったあの日から数ヶ月が経ち、3月になっていた。卒業式も終わり、今日は第1志望の合格発表の日だった。あれ以降、海とは話をしていないし、連絡すら取っていない。
時々、隣の部屋から桜が電話している声は聞こえてきたけれど、内容までは聞き取れなかった。私が知っているのは、夜遅くまで海の部屋の明かりがついていたことくらいだ。
気付けば、合格発表の時間になっていた。
深呼吸をしながら、スマホをスクロールし、自分の番号を探す。
「受かった……!」
私の番号が、はっきりとスマホの画面に映し出されていた。私は第1志望に合格した。
ホッと息をつき、嬉しさをかみ締めていると、玄関のインターホンが鳴った。
誰だと思い、確認しにいくと、そこに居たのは海だった。
「しぃちゃん!俺、受かったよ。」
玄関を開けるや否や、海は屈託のない笑顔を浮かべて、合格を教えてくれた。
「おめでとう!私も受かったよ。」
「おめでとう!」
海の笑顔が先程より明るくなったかと思ったら、目線が少しずつ下に下がっていった。
何かを気にするように、少し寂しそうに下に沈んだ視線に目を合わせにいくと、海は小さな声で呟いた。
「じゃあ、本当に県外に行くんだ。」
「まだ引っ越すまでもう少しあるけどね。」
「……やっぱり俺、寂しいよ。」
海はあの時と同じように、私が合わせた目線を逸らした。あの時と違うのは、間違いなく私が居なくなることを寂しがってくれているのがわかることだった。
「ずっと隣にしぃちゃんが居てくれたから。」
「え?」
私は海の発言を不思議に思った。海の隣に居たのは桜で、私ではないから。私が戸惑ったのを感じ取った海は顔を上げ、私の方を見て話し始めた。
「俺、しぃちゃんのおかげで受験頑張れたんだ。夜中に窓の外見たら、しぃちゃんの部屋の明かりがついててさ。それ見て、しぃちゃんも頑張ってるんだって思ったら、俺も頑張ろうって思えたから。」
「本当にありがとう。」
私は驚いて、目を見開いた。私が海の部屋の明かりを見て頑張ろうと思っていたのと同じように、海も私のことを見て頑張ろうと思ってくれていたのだ。私はいつの間にか泣いていた。
「ちょっと、何で泣くの……!!」
「違うの、違うの。」
止めようと思っても涙は止まらず、それと同時に墓場まで持っていくと決めた思いまでもが私の中に溢れてきた。ここで言わなきゃ、二度と言えない。言わなければ、きっと後悔すると、心から確信した。
「私、ずっと、ずっと、海が好きだった。」
私は震える声で、海に伝えた。海の顔が滲んだ視界の先に映っている。海が目を見開き、驚いた表情の後、申し訳なさそうな表情をしたのがわかる。
「海と桜が付き合って、もう忘れなきゃ、無かったことにしなきゃって、何度も思った。
でも、無理だった。今も、海のことが好き。」
やっと言えた、自分の気持ちを初めて。伝えきった私の目からはもう涙は出ていなかった。海はこちらをしっかりと見てくれていた。
「ごめん、気付かなくてごめん。俺、紫苑の気持ち、知らなくて。」
「謝らないでよ。私が悪いみたいじゃん。」
「ごめん。あっ。」
私は思わず笑みがこぼれた。海も笑っていた。思いを伝えても、こうやって笑い合えるなら、早く伝えればよかったなと感じる。
「私が言わなかったんだから。気付かなくて当たり前だよ。だから、受験中私のことを見てたことと、私が居なくなって寂しいって思ってくれてたことが嬉しくて、気づいたら泣いてた。」
そう、嬉しかったのだ。
私はずっと桜みたいになりたいと考えてきた。もっと友達に囲まれて、クラスの中心になって、海と付き合えるような、今の私を捨てて、そんなふうになりたいと思っていたはずだった。でも、きっと心の中では違ったのだ。今の私を、私自身を見て欲しかった、認めて欲しかった。だから、海は桜とは違う今の私を、山崎紫苑を、見て、気付いてくれていたことが、涙があふれるほど嬉しかった。
「海が私を見てくれてたことだけで私は報われたよ。」
「紫苑……。こちらこそ、ありがとう。俺のこと思ってくれて。付き合えなくても、大事だと思ってるから。」
「本当にありがとう、海。」
私は私のままでいい。まだ海のことは好きなままだけど、きっとそれでいいのだ。
私はこれから、県外に出る。たくさんの人と知り合って、海への気持ちを思い出にして、新しい恋をするかもしれない。その時は、素の私を認めてくれる人を好きになりたいと、そう思った。
時々、隣の部屋から桜が電話している声は聞こえてきたけれど、内容までは聞き取れなかった。私が知っているのは、夜遅くまで海の部屋の明かりがついていたことくらいだ。
気付けば、合格発表の時間になっていた。
深呼吸をしながら、スマホをスクロールし、自分の番号を探す。
「受かった……!」
私の番号が、はっきりとスマホの画面に映し出されていた。私は第1志望に合格した。
ホッと息をつき、嬉しさをかみ締めていると、玄関のインターホンが鳴った。
誰だと思い、確認しにいくと、そこに居たのは海だった。
「しぃちゃん!俺、受かったよ。」
玄関を開けるや否や、海は屈託のない笑顔を浮かべて、合格を教えてくれた。
「おめでとう!私も受かったよ。」
「おめでとう!」
海の笑顔が先程より明るくなったかと思ったら、目線が少しずつ下に下がっていった。
何かを気にするように、少し寂しそうに下に沈んだ視線に目を合わせにいくと、海は小さな声で呟いた。
「じゃあ、本当に県外に行くんだ。」
「まだ引っ越すまでもう少しあるけどね。」
「……やっぱり俺、寂しいよ。」
海はあの時と同じように、私が合わせた目線を逸らした。あの時と違うのは、間違いなく私が居なくなることを寂しがってくれているのがわかることだった。
「ずっと隣にしぃちゃんが居てくれたから。」
「え?」
私は海の発言を不思議に思った。海の隣に居たのは桜で、私ではないから。私が戸惑ったのを感じ取った海は顔を上げ、私の方を見て話し始めた。
「俺、しぃちゃんのおかげで受験頑張れたんだ。夜中に窓の外見たら、しぃちゃんの部屋の明かりがついててさ。それ見て、しぃちゃんも頑張ってるんだって思ったら、俺も頑張ろうって思えたから。」
「本当にありがとう。」
私は驚いて、目を見開いた。私が海の部屋の明かりを見て頑張ろうと思っていたのと同じように、海も私のことを見て頑張ろうと思ってくれていたのだ。私はいつの間にか泣いていた。
「ちょっと、何で泣くの……!!」
「違うの、違うの。」
止めようと思っても涙は止まらず、それと同時に墓場まで持っていくと決めた思いまでもが私の中に溢れてきた。ここで言わなきゃ、二度と言えない。言わなければ、きっと後悔すると、心から確信した。
「私、ずっと、ずっと、海が好きだった。」
私は震える声で、海に伝えた。海の顔が滲んだ視界の先に映っている。海が目を見開き、驚いた表情の後、申し訳なさそうな表情をしたのがわかる。
「海と桜が付き合って、もう忘れなきゃ、無かったことにしなきゃって、何度も思った。
でも、無理だった。今も、海のことが好き。」
やっと言えた、自分の気持ちを初めて。伝えきった私の目からはもう涙は出ていなかった。海はこちらをしっかりと見てくれていた。
「ごめん、気付かなくてごめん。俺、紫苑の気持ち、知らなくて。」
「謝らないでよ。私が悪いみたいじゃん。」
「ごめん。あっ。」
私は思わず笑みがこぼれた。海も笑っていた。思いを伝えても、こうやって笑い合えるなら、早く伝えればよかったなと感じる。
「私が言わなかったんだから。気付かなくて当たり前だよ。だから、受験中私のことを見てたことと、私が居なくなって寂しいって思ってくれてたことが嬉しくて、気づいたら泣いてた。」
そう、嬉しかったのだ。
私はずっと桜みたいになりたいと考えてきた。もっと友達に囲まれて、クラスの中心になって、海と付き合えるような、今の私を捨てて、そんなふうになりたいと思っていたはずだった。でも、きっと心の中では違ったのだ。今の私を、私自身を見て欲しかった、認めて欲しかった。だから、海は桜とは違う今の私を、山崎紫苑を、見て、気付いてくれていたことが、涙があふれるほど嬉しかった。
「海が私を見てくれてたことだけで私は報われたよ。」
「紫苑……。こちらこそ、ありがとう。俺のこと思ってくれて。付き合えなくても、大事だと思ってるから。」
「本当にありがとう、海。」
私は私のままでいい。まだ海のことは好きなままだけど、きっとそれでいいのだ。
私はこれから、県外に出る。たくさんの人と知り合って、海への気持ちを思い出にして、新しい恋をするかもしれない。その時は、素の私を認めてくれる人を好きになりたいと、そう思った。
