「しぃちゃん!」
「海、うるさい。」
学校から帰る途中、家の最寄り駅に着いた時、海の声が聞こえた。
どこまでも届くような大きく元気な声に思わず笑ってしまった。
海は昔から私のことを「しぃちゃん」と呼ぶ。
海だけが呼ぶその言葉が私は大好きだった。
海がくれた特別な、私に向けた言葉だったから。
「しぃちゃん、大学どこ行くの?」
「〇〇大学だよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてない。というか、県外行くの意外。」
もうすぐ冬になるというのに、お互いの志望校も話していなかった。
2人で会えば、必ず桜の話をしていたから。
高校受験の時は、同じ志望校を目指し、お互い頑張ろうねと声を掛け合ったはずなのに。
「どこが意外なの。この辺大学ないし、基本みんな県外だよ?」
「そうなんだけど、しぃちゃんが桜を置いて県外に行くんだ、って思った。」
海が少し寂しそうに目線を逸らしたように見えた。海が私のことを思って、寂しいと感じるわけが無い。きっと、桜のことを考えたのだ。
「桜には海がいるから大丈夫だよ。……もしかして海も県外に行く?」
「行かないよ。俺が高1の時からずっと××大目指してたの知ってるでしょ?」
もちろん知っている。最初は私も同じ大学を目指していたから。2人が付き合って、離れなきゃと思ってすぐ、誰にも相談せずに変えたけれど。
「しぃちゃん。」
「んー?」
「俺、しぃちゃんが居なくなるの寂しい。だって、くだらない話に付き合ってくれるのも、俺に勉強を教えてくれるのも、しぃちゃんだけだから。」
思ってもいない言葉に、心臓が跳ねた。
2人が付き合ってから、海の言葉には惑わされないようにと、気を付けていたのに。
でも、冷静に、心が騒ぎ立ててることがバレないように、落ち着いて言葉を返した。
「くだらない話は桜に付き合ってもらったら?」
「勉強は?」
「海、頭いいでしょ。何も教えることないよ。」
「えー。」
海の隣に並んで帰ったこの時間は夢のようで。
幼い頃は当たり前だと思っていたこの場所に立てることがあまりに幸せだった。
恋人として、隣に立つことは許されなくても、幼馴染として、隣に立つことくらいは許してくれるだろうか。いくら自問自答しても答えは出なかった。
「海、うるさい。」
学校から帰る途中、家の最寄り駅に着いた時、海の声が聞こえた。
どこまでも届くような大きく元気な声に思わず笑ってしまった。
海は昔から私のことを「しぃちゃん」と呼ぶ。
海だけが呼ぶその言葉が私は大好きだった。
海がくれた特別な、私に向けた言葉だったから。
「しぃちゃん、大学どこ行くの?」
「〇〇大学だよ。言ってなかったっけ?」
「聞いてない。というか、県外行くの意外。」
もうすぐ冬になるというのに、お互いの志望校も話していなかった。
2人で会えば、必ず桜の話をしていたから。
高校受験の時は、同じ志望校を目指し、お互い頑張ろうねと声を掛け合ったはずなのに。
「どこが意外なの。この辺大学ないし、基本みんな県外だよ?」
「そうなんだけど、しぃちゃんが桜を置いて県外に行くんだ、って思った。」
海が少し寂しそうに目線を逸らしたように見えた。海が私のことを思って、寂しいと感じるわけが無い。きっと、桜のことを考えたのだ。
「桜には海がいるから大丈夫だよ。……もしかして海も県外に行く?」
「行かないよ。俺が高1の時からずっと××大目指してたの知ってるでしょ?」
もちろん知っている。最初は私も同じ大学を目指していたから。2人が付き合って、離れなきゃと思ってすぐ、誰にも相談せずに変えたけれど。
「しぃちゃん。」
「んー?」
「俺、しぃちゃんが居なくなるの寂しい。だって、くだらない話に付き合ってくれるのも、俺に勉強を教えてくれるのも、しぃちゃんだけだから。」
思ってもいない言葉に、心臓が跳ねた。
2人が付き合ってから、海の言葉には惑わされないようにと、気を付けていたのに。
でも、冷静に、心が騒ぎ立ててることがバレないように、落ち着いて言葉を返した。
「くだらない話は桜に付き合ってもらったら?」
「勉強は?」
「海、頭いいでしょ。何も教えることないよ。」
「えー。」
海の隣に並んで帰ったこの時間は夢のようで。
幼い頃は当たり前だと思っていたこの場所に立てることがあまりに幸せだった。
恋人として、隣に立つことは許されなくても、幼馴染として、隣に立つことくらいは許してくれるだろうか。いくら自問自答しても答えは出なかった。
