放課後、図書館の窓から差し込む光が、机の上の本をやさしく照らしていた。

莉瀬は、琉久の保育園のプリントを読みながら、ふとため息をついた。

「来週、参観日かぁ…玲央は部活あるし、わたし一人で行くしかないかな」

湊は隣で、静かにページをめくっていたけれど、莉瀬の言葉に顔を上げた。

「僕、時間あったら一緒に行こうか?」

「えっ?いいの?でも、湊くん関係ないし…」

「琉久くん、僕のこと“おにいちゃん”って言ってくれてるし、ちょっとくらい関係あるかも」

湊は冗談めかして笑った。

莉瀬はくすっと笑って、「じゃあ、お願いしちゃおうかな」と言った。

その週末。

保育園の参観日。

湊は莉瀬と一緒に園に向かい、琉久の元気な姿を見守った。

帰り道、莉瀬が「湊くん、ほんとに助かったよ」と言ったその瞬間—— 後ろから玲央が現れた。

「おまえ、図書館の本、返し忘れてただろ」

そう言って、湊に一冊の本を手渡した。

「あっ…ありがとう。なんで持ってるの?」

「図書館、今日行ったらカウンターに置いてあった。名前見て、あーまたかって思っただけ」

湊は、玲央のぶっきらぼうな態度に苦笑した。

でも、その手助けが、なんだかすごく嬉しかった。

「…助かったよ」

「別に。返し忘れるやつ、見てるとイライラするだけ」

そう言って、玲央はさっさと歩き出した。

琉久が「れお~!まって~!」と追いかけていく。

莉瀬はその様子を見て、「玲央、最近優しくなったなー」とつぶやいた。

湊は、玲央の背中を見ながら、心の中で思った。

——言葉にはしないけど、味方でいてくれる。

——それだけで、ちょっと勇気が湧いてくる。

春の風が、ふたりの背中をそっと押していた。