日曜日の午後。

窓の外では、風が花びらをくるくると舞わせていた。

莉瀬は、リビングのテーブルを拭きながら、何度も時計を見ていた。

「湊くん、来るの?」

琉久がソファの上でぴょんぴょん跳ねながら、何度も聞いてくる。

「うん、もうすぐだよ。そんなに楽しみなの?」

莉瀬が笑うと、琉久は「うんっ!」と満面の笑みを返した。

玲央はというと、部屋の隅でスマホをいじりながら、ちらっとだけ反応した。

「ふーん。あいつ、どんな顔して来るんだろ」

「あいつ、、って、、」

ピンポーン。 玄関のチャイムが鳴ると、琉久は「きたーっ!」と叫んで玄関へダッシュ。

その勢いに、玲央が「うるせぇ…」とぼそっとつぶやいた。

「こんにちは~」

湊は、手に小さな紙袋を持って立っていた。

「これ、琉久くんに。本屋さんで見つけたシールブック。」

「わああ!」

「え、買ってきてくれたの?」

「まあ、琉久君が喜ぶと思って。」

琉久はさっそく袋を開けて、シールをぺたぺた貼り始める。

湊はその様子を見て、くすっと笑った。

「すごい集中力だね」

「うん、シールは命だから」

莉瀬が冗談めかして言うと、湊は「なるほど」と笑った。

リビングに入ると、玲央がちらっと湊を見た。

「…来たんだ」

その声はぶっきらぼうだったけど、どこか照れくさそうでもあった。

「うん、玲央くんのギター、また聴きたいなって思って」

湊がそう言うと、玲央は少しだけ目を見開いた。

「…別に、たいしたもんじゃないけど」

そう言いながらも、ギターを手に取って、ぽろんと音を鳴らす。

湊は目を輝かせて、玲央の指の動きをじっと見つめていた。

「コードのつなぎ方、すごくきれいだね。…自分で考えたの?」

「…まあ、ちょっとは。耳で拾ってるだけだけど」

玲央の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。

莉瀬はキッチンでお茶を淹れながら、その光景をそっと見守っていた。

湊が家にいるだけで、空気がやわらかくなる。

玲央も、琉久も、なんだかいつもより穏やかだ。

「莉瀬ちゃんも、座ってよ」

湊が声をかけてくれて、莉瀬は湊の隣に腰を下ろした。

「…なんか、不思議だね。湊くんがここにいるの」

「うん。でも、すごく馴染んでる」

その言葉に、莉瀬はふっと笑った。

湊の隣にいると、肩の力が抜けていく。

弟たちのことも、学校のことも、少しだけ忘れていられる。

「…莉瀬ちゃんって、いつも頑張ってるよね」

湊がぽつりとつぶやいた。

「え?」

「玲央くんにも、琉久くんにも、すごく優しい。…でも、自分のことは後回しにしてる気がする」

莉瀬は、言葉に詰まった。

そんなふうに言われたのは、初めてだった。

「…わたし、そんなつもりじゃ」

「ううん、責めてるわけじゃないよ。ただ、たまには誰かに頼ってもいいんじゃないかなって」

湊の声は、春の風みたいにやさしかった。

莉瀬の胸の奥で、何かがじんわりとほどけていく。

そのとき、琉久がシールを持って駆け寄ってきた。

「みなとくん、これ見て!ぜんぶ貼ったよ!」

湊は「すごいね!」と笑って、琉久の頭をなでた。

その笑顔を見て、莉瀬は思った。

——この人が、うちに来てくれてよかった。