部屋の中は、静かで、あたたかくて、やさしい空気に包まれていた。

ベッドの中、莉瀬は琉久の髪をなでながら、少しずつまぶたが重くなってきていた。

隣の湊は、まだ起きていて、何か言いたそうにしていた。

「今日、めっちゃ楽しかった」

莉瀬が、ぽつりとつぶやいた。

「うん。僕も」

湊は、少し驚いたように返す。

「また…お願いしても…いい?」

「もちろん。いつでも」

その言葉に、莉瀬はふわっと笑って、でもその笑顔は、もう眠気に包まれていた。

語尾が、少しずつ途切れ始める。

「…うれし…かった…」

「うん。僕も、ほんとに嬉しかったよ」

湊は、莉瀬が眠りかけていることに気づかず、そっと言葉を続けた。

「…あのさ」

湊が、少しだけ勇気を出して、踏み込もうとした瞬間。

「ううん?」 莉瀬が、眠そうな声で返す。

その声が、ふわふわしていて、途切れ途切れで、 湊はその可愛さに、胸がぎゅっとなった。

——あ、寝かけてる。

——でも…かわいすぎる。

湊は、気づかないふりをして、ゆっくり話し続けた。

「莉瀬ちゃんって、ほんと優しいよね」

「…んー…そう…かな…」

「うん。すごく、あったかい人だと思う」

「…ふふ…ありがと…」

その声は、もうほとんど夢の中。

湊は、莉瀬の寝顔をそっと見つめて、少しだけ迷って

—— でも、静かに、やさしく言った。

「好き」

その言葉に、莉瀬は、ふわふわしたまま、ぽつりと返した。

「…私もー…」

湊は、目を見開いて、そしてふっと笑った。

——たぶん、意味はわかってない。

——でも、それでも嬉しい。

「おやすみ」

湊は、そっと目を閉じた。