リビングの空気は、ちょっとだけ静かで、ちょっとだけ気まずかった。

湊は、ソファに座ったまま、寝る場所の話を切り出そうとしていた。

莉瀬は、何度も言葉を飲み込んで、タイミングを探していた。

そのとき、風呂上がりの玲央が、タオルで髪を拭きながらリビングに戻ってきた。

「で、湊どこで寝んの?」

その声に、ふたりがぴくっと反応する。

「えっと…ソファでも大丈夫だよ」

湊が、気を遣うように言った。

「いやいや、ソファ硬いし…」

莉瀬が言いかけたその瞬間。

「じゃあ、湊とねーちゃんが一緒に寝ればいいじゃん」

玲央が、さらっと言い放った。

「えっ!?」

「はっ!?」

ふたりの顔が、同時に真っ赤になる。

「な、なに言ってんの玲央!?」

「いやいやいや、それは…!」

湊は、慌てて手を振りながら、視線を泳がせる。

莉瀬は、顔を真っ赤にして、クッションに顔を埋めた。

玲央は、タオルを肩にかけたまま、ふーんと鼻で笑った。

「おれ、ソファでいいから。湊、ねーちゃんのベッド使えよ」

「え、でも…」

湊は、まだ戸惑っていた。

莉瀬は、顔を隠したまま、ぽつりとつぶやいた。

「…ソファ、硬いし…私のベッド、使って」

湊は、驚いたように顔を上げた。

「いいの?」

「うん。ソファじゃ、疲れちゃうし…」

その言葉に、湊は少しだけ目を見開いて、ふわっと笑った。

「……ありがとう」

玲央は、冷蔵庫からジュースを取り出しながら、

「ま、変なことすんなよ」

とだけ言って、また自分の部屋へ戻っていった。

ふたりは、顔を赤くしたまま、リビングに取り残された。

——なんであんなこと言うの!?

——でも、ちょっとだけ…嬉しかった。