湯船の中、ぽこぽこと泡が弾ける音だけが響いていた。

莉瀬は、ぼんやりと天井を見つめながら、ふと気づいた。

——あれ?湊くん、どこで寝るの?

いつもは、3人で同じ部屋。

ベッドは2つしかなくて、玲央と琉久が一緒に寝て、莉瀬はひとりで使っている。

「今日は…ソファーかな…?」

でも、ソファーは狭いし、硬いし、湊にはちょっとかわいそう。

「……ってことは、私のベッド…!?」

その瞬間、心臓が跳ねた。

——湊くんが、私のベッドに!?

——いやいやいやいや、無理無理無理!!

「うやああああああ!!」

湯船の中で、ひとり悶絶する。

顔が熱いのは、のぼせたせいだけじゃない。

頭の中がぐるぐるして、どうしたらいいのかわからない。

「……とりあえず、出よう」

長風呂になりすぎたことに気づいて、莉瀬は湯船から上がった。

タオルで髪をまとめて、顔を軽く拭いて出た瞬間、

「え、莉瀬ちゃん…かわいい」

湊の声が、ふわっと届いた。

「えっ!?あ、すっぴん、、。」

莉瀬は、タオルで顔を隠しながら、冷蔵庫へダッシュ。

冷たい水を取り出して、ごくごくと飲む。

「はぁ…入りすぎちゃったな…」

水を飲み干して、少し落ち着いたと思ったそのとき。

「莉瀬ちゃん、顔赤くない?」

湊が、心配そうに言った。

「えっ…」

その言葉で、さらに顔が赤くなる。

——のぼせたのもあるけど、照れのほうが強い…!

頭がくらくらして、少しふらっとした瞬間

—— 湊が、すっと近づいてきた。

「大丈夫!?ちょっと座ろう」

湊は、莉瀬の腕をそっと支えて、ソファへ導いた。

その手が、やさしくて、あたたかくて。

でも、今はそれが余計に心臓に響いてしまう。

「……ごめん、ちょっとのぼせちゃったかも」

「ううん、無理しないで。水、もう少し飲む?」

莉瀬は、こくんとうなずいて、湊の顔を見ないようにしながら、そっと深呼吸した。