部屋の中は、静かで、やわらかな暗さに包まれていた。

莉瀬は、ふと目を覚ました。

隣には、すやすやと眠る琉久。

そして、自分の肩には、ふわりと布団がかかっていた。

「……ん?」

莉瀬は、ぼんやりとした頭で、布団を見つめた。

——寝るとき、布団、かけてなかった気がする。

——琉久にかけて、自分はそのままだったような…

「……え、これ…」

莉瀬の心臓が、どくんと跳ねた。

玲央なら、そんなことしない。

むしろ「勝手に寝てろ」って言いそう。

じゃあ… 「湊くん…?」

顔が一気に熱くなる。

「……うわ、やば…」

莉瀬は、そっとベッドを抜け出して、寝室のドアを開けた。

リビングからは、ぽろん…とギターの音が聞こえてくる。

湊と玲央が並んで座っていて、湊がコードを確認しながら、玲央に何か話していた。

「このコード、ちょっと難しいね」

「指つりそう。てか、湊、まじで真面目すぎ」

その空気に、莉瀬はそっと足を踏み入れた。

「あ、莉瀬ちゃん。起きた?」

湊が、ふわっと笑って声をかけてくる。

「うん…ごめんね、一緒に寝ちゃってた…」

莉瀬は、髪を整えながら、そっと言った。

「…って、知ってるの?あ、もしかして…布団かけてくれたの、湊くん?」

湊は、少し照れたように笑って、ギターの音を止めた。

「…あー、うん。寝ちゃってたから。風邪ひかないようにと思って」

その言葉に、莉瀬の顔がぱっと赤くなる。

心臓が、また跳ねた。

「……ありがとう」 声が小さくなってしまう。

玲央は、ギターの弦を軽く弾きながら、興味なさそうに言った。

「へー。やさしいじゃん、湊」

「玲央は絶対やらないでしょ」

「うん。めんどいし」

莉瀬は、湊の横顔をちらっと見て、また顔を伏せた。

でも、胸の奥は、じんわりとあたたかかった。