春の風が、窓のすきまからそっと入り込んで、カーテンをふわりと揺らした。

莉瀬は、リビングのソファに座って、琉久の髪を優しく撫でていた。

「みなとくんくる?」

琉久が、つぶらな瞳で見上げてくる。

「うーん、今日はどうかな…」

そう言いながらも、莉瀬の心は少しだけ期待していた。

湊が来ると、琉久は嬉しそうに笑うし、玲央もなんだか機嫌がよくなる。

そして何より—— 湊のやわらかな声と、あたたかい笑顔に、莉瀬自身が救われていることに気づいていた。

春は、何かが始まる季節。

風の音にまぎれて、心の奥にしまっていた想いが、そっと動き出す。