有澤先生は少し間を置いてから話し始めた。
「実は、僕がこの病院に入り立ての頃、治療が難しい患者さんの担当を任された時に、色々サポートしてくれていたのが板垣先生だったんだ。」
「え?」
「桜井さんが知らないのも無理はないよ。表向きは板垣先生が主担当になってて、実際は僕が担当してた。
その時の経験が評価されて今回推薦されたんだと思う」
蕾は黙って聞いているしかなかった。
知らなかった一面。板垣先生が、有澤先生から少なからず、尊敬できる側面も持っていたなんて。
「だから板垣先生自身は僕に対しては特に厳しいことも言わないよ。
ただ仕事のスタンスは確かに厳格だけどね」
「でも……」
「わかってる。桜井さんは板垣先生のやり方に納得できない部分もあるんだろう?」
図星を指され、蕾は表情が曇り、視線を落とした。
有澤先生は彼女の手を離さずに続ける。
「板垣先生の推薦を受け入れるということは、新病棟で重要な役割を担うということ。
まぁ、僕の医師人生の中で大きなチャンスだからねー。」
「チャンス……ですか」
「ああ。これまでの経験を活かしてさらに成長できる舞台だと思っているし。もちろん簡単じゃないだろうけどね」
有澤先生の表情からは自信と不安が入り混じっているように見えた。
しかし目には確かに情熱の光が宿っている。
「だから……」
と彼は続けた。
「もし何か困ったことがあったら桜井さんも迷わず相談して?僕も全力でサポートするから」



