異動。
その言葉が重くのしかかる。
「つまり……今の病棟から人が移るってことですよね」
先輩の秋本さんは髪をまとめながら頷いた。
「そういうこと。まあ、うちら看護師はまだ詳細聞いてないから推測だけど」
看護師同士でさえこれだけ騒いでいるのだ。
おそらく医師陣は既に知っているのだろう。つまり有澤先生も……。
最近病棟で有澤先生をあまり見かけなかったのもこれが原因だったようだ。
(異動……か)
もし自分と有澤先生が離れてしまったら。
あの夜に交わした出来事、亡くなった奥さんの事も聴く機会は失われるのだろうか。
そう思うと胸が苦しくなった。
「蕾ちゃん?大丈夫?顔色悪いよ」
先輩の秋本さんの声で我に返る。慌てて笑顔を作った。
「大丈夫です。ちょっと疲れてるだけかもしれません。お疲れ様でした。」
帰宅準備を済ませてロッカールームを出た蕾は、廊下をゆっくりと歩いていた。



