「千尋さん、無理しないでね。辛いことがあったら、いつでも私に話して」
そう伝えると、千尋さんは「うん、ありがとう!」と、力強く頷いてくれた。
その言葉に、私は安堵したが、同時に、彼女の抱える闇の深さを改めて感じさせられた。
板垣先生の治療は、千尋さんの病状を一時的に安定させたかに見えたが、それは嵐の前の静けさに過ぎなかったのかもしれない。
彼女の幻聴や過呼吸の頻度は、依然として高く、その苦しみは、私には計り知れないものがあった。
「千尋さん、最近、調子はどう?」
「うん、大丈夫だよ! 蕾ちゃんに心配かけたくないからね」
そう言って微笑む千尋さん。
その笑顔は、太陽のように明るく、眩しかった。
しかし、その裏に隠された彼女の苦悩に、私は気づいてあげられなかった。
彼女の言葉を鵜呑みにしてしまったこと、もっと深く彼女の心に寄り添うべきだったこと。
後悔の念が、私の胸を締め付けた。
千尋さんの病状は、悪化の一途をたどっていたのだ。
私は、彼女の異変に気づきながらも、それを確信することができなかった。
いや、確信したくなかったのかもしれない。
彼女が、もう一度、あの頃のように、苦しむ姿を見るのが怖かったのだ。
そんな私の臆病さが、彼女を救う機会を奪ってしまったのだろうか。



