さくらびと。【長編ver.完結】






すると有澤先生の手が肩から腰に滑り落ちる。支えるというより抱きしめるような動きに、蕾は身を硬くした。








「うあっ、先生っ……だめですって。ここ職場の人も通るし」






「誰もいないよ」







「でもっ……」









ゆっくりと近づいてくる彼の体温に、さくらは反射的に身を固くした。







でも次の瞬間、有澤先生の腕が彼女を包み込んでいた。







暫く無言でぎゅっと抱き締められる。






「せ、先生……?」








驚きと戸惑いで声が上ずる。









心臓の音が有澤先生に聞こえてしまうんじゃないだろうか。








蕾は緊張と焦りが交差していた。










二年前の忘年会の夜が鮮明に蘇る。あの時と同じ気持ちに戻る。






洗練された清潔感のある香り。







でも今は違う。









あの時は迷いがあったけれど、今この腕の中は不思議と安心できた。