涙が溢れそうになった時、肩に軽く触れる感触があった。
「大丈夫?かなり酔ってるみたいだけど」
耳元で聞こえたのは間違いなく有澤先生の声。
蕾は驚いて振り返った。いつの間にか彼が追ってきていた。
「あっ、えっ、先生……二次会に行ったんじゃ……」
言いかけて口ごもる。
さっきの光景が脳裏をよぎる。
でもここにいる有澤先生は、もしかしたら私のことを……?
微かな淡い期待に胸を膨らませる。
「行かなかったよ。桜井さんが気になって」
その言葉に蕾は顔を上げた。
有澤先生の眼差しが真剣だった。でもそれを素直に受け入れられない自分がいる。
「どうしてですか……なんで私なんかに構うんですか?」
言葉に詰まったまま顔を背けた蕾に、有澤先生は一瞬沈黙した。
辺りは人影もまばらで、街灯だけが二人の姿を淡く照らしている。
「私なんか、って言わないでほしい」
予想外の強い口調に、さくらは思わず顔を上げた。有澤先生の表情は少し困っている表情だった。



