忘年会当日。
会場は、色とりどりの装飾と、人々の賑やかな声で溢れていた。
蕾は、視線だけ動かして有澤先生の姿を探した。
彼を見つけた時、胸が高鳴ったが、すぐに、松村師長の言葉が頭をよぎった。
周りの目を気にする有澤先生は、蕾に話しかけることもなく、ただ、穏やかに微笑んでいただけだった。
二人の間には、見えない壁があるかのようで、蕾は切ない気持ちになった。
「先生、あの...。」
二次会のカラオケ会場。
周りが酔っ払って賑わっているのをいいことに、蕾は意を決して有澤先生に話しかけた。
しかし、有澤先生は、いつものように、少しだけ困ったような、それでいてどこか遠い目をして、素っ気ない態度を貫いた。
「ああ、桜井さん。どうしたの?」
その、いつもの優しさに包まれた声なのに、蕾には突き放されたように感じられた。
心臓が、どくん、と大きく鳴った。堪えきれなくなった蕾は、唇を噛みしめた。
「あ、...いえ、なんでもないです。すみません、私、少し気分が悪いので、先に失礼します。」
そう言うと、蕾は電話をするふりをして、足早に会場を後にした。



