「美桜……本当に大丈夫なのか?」
病院の車椅子を押しながら裕紀は心配そうに尋ねた。
美桜の体力は限界に近かったが、彼女の瞳には強い意志が宿っている。
「うん、今日だけは……我儘を聞いてほしいの。」
そう言った彼女の声は弱々しくも凛としていた。
看護師たちの制止を振り切り、裕紀は愛する妻を病院近くの公園へ連れてきた。
そこには、満開の桜並木が彼らを出迎えていた。
「うわぁ……」
ベンチに腰掛けた美桜から思わず溜息が漏れた。
頭上には薄紅色の天蓋が広がり、風に舞う花びらが降り注ぐ。それはまるで天国への通路のようだった。
「すっごく、綺麗…!」
「うん……」
裕紀は答えながらも美桜の姿から目が離せなかった。
頬はさらに痩け、着物の襟元からは鎖骨が浮き出ている。
しかし不思議と今日の彼女は輝いて見えた。
「ねぇ裕紀。」
突然涙声になった美桜に驚いて顔を向けると、彼女はボロボロと泣いていた。
「ごめんね、急に……でも嬉しくて。ずっとここに裕紀と来たかったの。」
涙を拭うこともせず彼女は続けた。
「あとね、裕紀が医者として、これからの未来を想像して考えたら……なんだか胸がいっぱいになっちゃって。」
その言葉に裕紀の胸も詰まった。美桜は自分の命よりも彼の将来を案じているのだ。
「…っ、僕の未来なんて……」
「ダメ!」
珍しく強い口調で遮られ裕紀は言葉を飲み込んだ。
「お願い、諦めないで……あなたは絶対に、素晴らしい医者になれる。」
美桜は裕紀の手を取り自分の頬に当てた。
「私はずっと応援してる。」



