さくらびと。【長編ver.完結】

その強さに裕紀は言葉を失った。

彼女は最後まで自分で人生を選択しようとしている。

「ただ……」


「ただ?」


「最後に……聞いてほしい事があるの。」





弱々しくも確かな願いだった。

裕紀は深く頷いた。




「もちろんだ、なんでも言ってくれ。」


窓の外では桜が風に舞っている。

薄紅色の花びらが一枚、室内に迷い込み、美桜の枕元に落ちた。


「桜が……きれい。」



窓の外で舞う桜の花びらは、美桜の顔に映る陰影を淡く照らしていた。

彼女の青白い肌に浮かぶ頬の赤みは、窓辺の微熱か、それとも命の残り火なのか。


「私ね、」


美桜の声は風に溶けるように小さく、それでも確かな芯を持っていた。



「あなたが大学に行ってる間に……いろんな病気について調べてたの。」



裕紀は黙って耳を傾けた。

彼女の知的好奇心は昔から強かった。


病に冒された今もなお知識を求めている姿に胸が痛む。



「最初はね……外科医の裕紀がカッコイイんだろうなぁとか、色々ふと思ってた。」



「手術着姿で颯爽と歩いて……患者さんの命を救う姿なんてドラマみたいでしょ?」







弱々しくも懐かしそうに笑う彼女の横顔を見つめながら、裕紀は大学の講義室を思い出していた。

初めて人体解剖に触れた日の緊張と高揚。


「でもね、」


美桜の指が裕紀の手の甲をそっと撫でた。


「裕紀ってさ、……人の気持ちに寄り添うのが本当に上手だと思うの。」



窓から差し込む陽光が彼女の頬を黄金色に染める。



「今こうして私の傍にいてくれるのもそう……

私が落ち込んでる時は必ず気づいて励ましてくれるし……
色々な事に気付いて教えてくれる……


そして、私をいつも笑顔にしてくれる。」





裕紀は何も言えなかった。





それは恋人として当たり前のことだと思っていた。


しかし美桜の目には別の意味があった。