さくらびと。【長編ver.完結】

講義が終わると同時に裕紀は荷物をまとめて教室を飛び出した。


走り出したい衝動を抑えて早足で廊下を抜ける。

途中で同期の女子医学生とぶつかりそうになった。



「あれ?裕紀くん珍しいね。いつも冷静な裕紀くんが慌ててるなんて…」


「ごめんね。急いでるんだ。」



短く謝罪して階段を駆け上がる。




エレベーターを待つのも煩わしく感じた。




地下駐車場に到着するとBMXの愛車のキーを取り出し、エンジンをかけてアクセルを踏み込んだ。




「あと十五分で着く。美桜、待ってて。」




祈るように呟きながら車を走らせる。


信号待ちの間に携帯をチェックしたが彼女からのメッセージはない。



それが余計に不安を煽った。




自宅マンションのエレベーターに乗っている間も落ち着かない。






十階に到着すると廊下を小走りに進み、「ただいま!」と叫びながら玄関を開けた。



しかし応答はない。






「美桜?」






リビングに入ると電気が消えており暗闇が広がっていた。


ソファには崩れるように横たわる人影がある。

慌てて駆け寄るとそれは美桜だった。


「おい!大丈夫か?!」

「裕…紀……」


肩を揺すってみると微かな声が返ってきた。

額に手を当てると熱っぽい。

急いで、裕紀は美桜を抱え、病院へ向かった。