さくらびと。【長編ver.完結】

昼近くになってようやく少し体調が落ち着いた。


美桜はゆっくりと体を起こしてトイレへ向かった。


そこで初めて自分の身体に起きた異変に気づいた。




「あれ……?」



生理が数日遅れていることに思い当たり、全身が凍りついたように硬直した。


慌てて検索アプリを開くと検索履歴に「妊娠 初期症状 吐き気 めまい」と並ぶワードが表示された。





「まさか……」




否定したい気持ちと期待が入り混じる。



心臓が激しく鼓動を打ち始め、額に冷や汗が滲んだ。



病院に行こうかと考えるが、この状態で一人で外出するのはリスクが高い。




誰かに相談したい—そう思った瞬間、浮かんだのは夫ではなく実家の叔母だった。



「叔母さん……」




電話をかけてもいいものか迷っているうちにまた眩暈が襲ってきた。


壁に手をついて支えるが視界が歪む。


ソファに座り込むと意識が朦朧としてきた。




「裕紀……早く帰ってきて……」



か細い声でつぶやいた後、美桜の記憶は途切れた。