決定的な出来事が起こったのは秋の始まり。
久しぶりに重なった週末の朝、美桜が用意してくれた朝食を食べながら裕紀は医学書を広げていた。
「また勉強してるの?」
「ああ、明日の資料作成をしておかないと。」
「でも休みくらい……」
と言ってから美桜は口を閉ざした。
自分が我儘を言っているのではないかと思い直したのだ。
しかし裕紀はそんな彼女の思いやりにも気づかずページを繰り続けた。
数分後、食卓の雰囲気に耐えられなくなった美桜が立ち上がった。
「ちょっと買い物行ってくるね。」
その背中が少し寂しげに見えて、裕紀は慌てて追いかけた。
「待って、どこ行くの?」
「別にいいじゃん。放っといてよ。」
これまで聞いたこともない尖った声に裕紀は驚いた。
そのままドアが閉まる音が響き渡り、部屋には呆然とした彼が残された。
「どうしたんだ……」
呟いても答えはない。
携帯を確認すると美桜から一通のメッセージが届いていた。
「今日の夕飯は自分で食べてね。」
その文字を見た時、ようやく自分が何かを間違えたことに気づいた。
夜になっても連絡は取れなかった。
近所を探し回るも美桜の姿は見当たらず、焦燥感だけが募っていく。
やがて公園のベンチに座る彼女を見つけた時にはホッとして膝から力が抜けそうになった。
「美桜……!」
彼女は目を合わせようとしない。裕紀が隣に腰掛けると、ようやく口を開いた。
「私たち……大丈夫なのかな。」
その問いに即答できなかった裕紀を見て、美桜は小さな溜息をついた。
「裕紀が夢に向かって頑張ってるの分かってるよ。でもね……私だって誰かに頼りたい時もあるんだよ」
「ごめん……気づけなくて。」
「ううん、私も悪かった。」
初めて見せる弱気な表情に胸が締め付けられる。
彼女の頬に触れた瞬間、冷たさを感じてハッと気が付いた。
随分と長い間ここに座っていたらしい。
「帰ろう。」
立ち上がる時に彼女の手を取り、そのまま握りしめた。小さな手が震えているのを感じて裕紀は決心した。このままではいけないと。
久しぶりに重なった週末の朝、美桜が用意してくれた朝食を食べながら裕紀は医学書を広げていた。
「また勉強してるの?」
「ああ、明日の資料作成をしておかないと。」
「でも休みくらい……」
と言ってから美桜は口を閉ざした。
自分が我儘を言っているのではないかと思い直したのだ。
しかし裕紀はそんな彼女の思いやりにも気づかずページを繰り続けた。
数分後、食卓の雰囲気に耐えられなくなった美桜が立ち上がった。
「ちょっと買い物行ってくるね。」
その背中が少し寂しげに見えて、裕紀は慌てて追いかけた。
「待って、どこ行くの?」
「別にいいじゃん。放っといてよ。」
これまで聞いたこともない尖った声に裕紀は驚いた。
そのままドアが閉まる音が響き渡り、部屋には呆然とした彼が残された。
「どうしたんだ……」
呟いても答えはない。
携帯を確認すると美桜から一通のメッセージが届いていた。
「今日の夕飯は自分で食べてね。」
その文字を見た時、ようやく自分が何かを間違えたことに気づいた。
夜になっても連絡は取れなかった。
近所を探し回るも美桜の姿は見当たらず、焦燥感だけが募っていく。
やがて公園のベンチに座る彼女を見つけた時にはホッとして膝から力が抜けそうになった。
「美桜……!」
彼女は目を合わせようとしない。裕紀が隣に腰掛けると、ようやく口を開いた。
「私たち……大丈夫なのかな。」
その問いに即答できなかった裕紀を見て、美桜は小さな溜息をついた。
「裕紀が夢に向かって頑張ってるの分かってるよ。でもね……私だって誰かに頼りたい時もあるんだよ」
「ごめん……気づけなくて。」
「ううん、私も悪かった。」
初めて見せる弱気な表情に胸が締め付けられる。
彼女の頬に触れた瞬間、冷たさを感じてハッと気が付いた。
随分と長い間ここに座っていたらしい。
「帰ろう。」
立ち上がる時に彼女の手を取り、そのまま握りしめた。小さな手が震えているのを感じて裕紀は決心した。このままではいけないと。



