そして、約束の日。







私は、千尋さんの手を引いて、中庭へと向かった。


風が心地よく吹き抜け、桜の花びらが、まるで祝福するかのように舞い散る。千尋さんは、桜の木を見上げると、感嘆の声を漏らした。


 
 「わあ...! 本当に綺麗...!」



 彼女は、満開の桜の下で、嬉しそうにくるくると回った。その姿は、まるで迷子の子供が、ようやく安心できる場所を見つけたかのようだった。



 
 「ーーねえ、蕾ちゃん。」

 
 「なあに?」


 「私、ここにいると、なんだか安心する。蕾ちゃんがそばにいてくれると、もっと。」



 
 千尋さんの言葉は、私の胸に温かく響いた。


この病院で、彼女の心の支えになれていることが、看護師として、そして一人の人間として、何よりの喜びだった。



桜の木の下で、私たち二人の間には、静かで、でも確かな友情の芽が、確かに芽生えていた。



あの日の約束は、私たちの関係にとって、かけがえのない一歩となったのだ。



まるで、桜の花が、これから咲き誇る未来を約束するかのように、優しく微笑んでいた。



この時の私には、今後あの様な出来事が起こるなんてまだ知るよしもなかった。