秋が深まるにつれ、美桜は少しずつ本来の自分を取り戻していった。
まず最初に変化が表れたのは食事だ。食欲が戻り、彼女の大好物だった抹茶パフェを食べる姿は以前と変わらなかった。
「これ美味しい〜!」
そう言って満面の笑みを浮かべる彼女を見るだけで僕の心は安らいだ。
文化祭の季節になると美桜は大学の古典舞踊サークルで舞台に立つことになった。
「裕紀、見て見て!新作衣装!」
着付けの練習中に見せてくれたのは鮮やかな紅葉柄の振袖。艶やかな美しさに思わず見惚れてしまう。
「すごく似合ってるよ。」
僕がそう言うと彼女は少し照れたように笑った。
そして舞台当日ー。
緊張した面持ちで袖に控える美桜に声をかける。
「大丈夫だよ。」
彼女は小さく頷くと深呼吸をした。
幕が開く。
笛の音とともに美桜が躍動的に動き始める。
しなやかで力強い舞は観客を魅了し、終わる頃には盛大な拍手が鳴り響いた。
「お疲れさま。」
楽屋で待っていると汗だくの美桜が入ってきて裕紀に抱きついてきた。
「やった……!ちゃんとできたよ!」
その体温を感じながら、僕は胸の内で確信した。
彼女はもう大丈夫だと。そして僕たちはきっと大丈夫なんだと。



