さくらびと。【長編ver.完結】

夏の終わりの陽射しが和らぐ頃、美桜は少しずつ変わっていった。


かつてのような明るさが戻ってきたわけではない。むしろ慎重に、一歩ずつ前へ進もうとしていた。



「お墓参りに行くんだけど……一緒に来てくれる?」



そう彼女が言い出したのは事故から二ヶ月が経った頃だった。父の眠る場所に初めて行くという彼女の決意に胸が熱くなる。



「もちろん。」

山間にある霊園までの道のりは言葉少なだった。

けれど美桜の横顔には固い決意が見えた。



墓前に手を合わせる彼女の姿は凛としていて、いつものお転婆さは微塵も感じられない。


「ありがとう。」


帰り道、突然美桜が言った。



「裕紀くんがいてくれたから……私、ここまで来れた。」


その言葉に僕は微笑み返すことしかできなかった。


彼女が自分を必要としてくれることが何より嬉しかった。