さくらびと。【長編ver.完結】





葬儀場から出てきた美桜の姿に言葉を失った。

普段のお転婆な笑顔は消え、目は虚ろだった。


それでも彼女は泣かずに耐えていた。



「美桜……」



声をかけるべきか迷ったが、雨が降り始めたのを見て駆け寄った。


傘を差し出し、彼女の肩を抱いた瞬間、緊張が走る。



「ありがとう。」



彼女は小さく言ったが、その声には力がなかった。



二人で傘の下に身を寄せ合い、美桜の家に向かって歩き始める。雨音が沈黙を埋める中、彼女がぽつりと口を開いた。



「お父さん……優しい人だったんだよ。」



その瞬間、彼女の頬を伝った涙はまるで宝石のようだった。



雨粒と混じり合いながら流れ落ちていく。




「小さい頃から私を守ってくれて……どんな時も味方でいてくれたの。」



涙は次第に嗚咽に変わり、彼女は肩を震わせた。思わず美桜の手を握ると、彼女は安心したように身体の力を抜いた。



「怖いんだ……一人になるのが。」


その言葉に胸が締め付けられた。美桜がこれほど弱さを見せることは初めてだった。



「僕がいるよ。」



自然と口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。でもそれは嘘偽りのない想いだった。




「君を一人になんてさせない。これからはずっと一緒だ。」



美桜がゆっくりと顔を上げる。その目には涙とともに確かな決意が宿っていた。



「本当に……?」



「本当。

美桜…僕は、君のことが好きなんだ。」




言葉にしてしまった瞬間、すべてが解放されたように感じた。この瞬間のために生きてきたのかもしれないと思うほどに。




顔がくしゃくしゃになる。美桜は泣きながら笑っていた。



「バカ……なんで今言うのよ。」


「ごめん。でも今しかないと思ったんだ。」




雨の中、傘の下で二人は長い抱擁を交わした。


お互いの体温を感じながら、それぞれの喪失と新たな始まりを共有していた。



「ねえ。」



美桜が顔を上げる。その瞳には希望の光が宿っていた。




「これからどうしようか。」



「一緒に生きていこう。お父さんの思い出も大切にしながら」



彼女は静かに頷き、そして言った。




「ありがとう……裕紀。」



雨は上がり始めていた。雲の隙間から差し込む光が二人を包み込み、まるで祝福しているかのようだった。