さくらびと。【長編ver.完結】

その後の記憶は曖昧だ。

病院に駆けつけたとき、廊下のベンチに座る美桜を見つけた。

いつも元気いっぱいの彼女が今は見る影もなく縮こまっていた。



「美桜……?」


声をかけても反応がない。彼女の前に膝をつき視線を合わせると、ようやく焦点の合わない目で僕を見た。


「お父さんが……」



その一言だけで十分だった。

彼女の肩を抱き寄せる。


普段なら恥ずかしがって抵抗するはずなのに、今日は違った。


僕の腕の中にもたれかけ、「お父さん……お父さん……」と何度も呼び続けていた。


医師から宣告を受けた後も現実感が湧かなかった。


美桜は放心状態で、涙さえとまってしまっていた。


彼女が愛していた人が永遠に去ってしまった。


その事実を受け入れることができないようだった。