蕾は、決心したように、言葉を紡ぎ始めた。
しかし、その先へ進むことができない。
彼女は、過去に亡くなった患者、千尋のことを思い出し、そして、有澤医師の亡き妻のことを思った。
結ばれることのない、二人の運命。蕾は、歯を食いしばり、絞り出すような声で言った。
すると蕾は、桜の木をゆっくり見上げ視線を移した。
「先生?..."桜が、きれいですね。"」
それは、蕾なりの、精一杯のまるでどこかの小説じみた告白だった。
有澤先生もゆっくりと桜を見上げ、
「ああ、そうだね。..."ずっと、綺麗だと思っていたよ。"」
それは、蕾の告白に対する、有澤先生なりの、今できる精一杯の返事だった。
言葉には、直接的な愛の告白はなかったけれど、その言葉の端々から、蕾への深い想いが伝わってくる。
二人の間には、長年の葛藤と、結ばれぬ想いが、静かに、しかし確かに、溶けていくような感覚があった。
別れは、決して避けられない運命にある。
しかし、この言葉を交わしたことで、二人の心は、永遠に結ばれたような気がした。



