さくらびと。【長編ver.完結】

蕾は頷きつつも不安を感じていた。

昨夜のキス以来初めての二人きりの時間。


その沈黙が耐えられなくなったころ、有澤先生が口を開いた。



「あの……昨日のことなんだけど。」


有澤先生が先に口を開いた。



蕾の心臓が一拍跳ねる。



「昨日?あ、あー、301号室の患者さんの血圧低下した時ですか?板垣先生が……」


「いや、ちょっと待って。その前、」



有澤先生が遮る。




「休憩室でのこと。」



言葉が喉に詰まる。


記憶が鮮明によみがえり、蕾は頬が熱くなるのを感じた。


「あれは…その……」



「突然で驚かせてごめん。でも僕は真剣だった。」



その問いにどう答えるべきか迷う。

拒否感は全くなかった。


むしろ心地よかったとさえ言えるかもしれない。


でもそれをそのまま伝える勇気は蕾にはまだなかった。



「あの、えっと……大丈夫です…!」



蕾はよそよそしくなった。



ようやくそれだけ絞り出すと、彼は安堵の笑みを浮かべた
有澤先生は蕾の手をそっと握る。


真摯な眼差しに射抜かれ、蕾は言葉を失う。


周囲に誰もいないことを確認してから続ける。



「桜井さんとゆっくり、向き合っていきたいと思ってる。あれからずっと考えてた。」



予期せぬ言葉に頭が真っ白になる。

返答すべき言葉を探しても見つからない。


「有澤先生……」


その言葉に嘘はなかった。



彼の眼差しから真剣さが伝わってくる。しかし、蕾は素直に喜べない自分がいた。






「ーー少し、時間をもらせませんか?」