さくらびと。【長編ver.完結】





「ーー先生、
奥さんをそんなにも、
大切に想っていたんですね…」



蕾は、言葉を詰まらせて俯いた。

とめどなく、涙がこぼれ落ちていく。それは、止まることを知らない。


「ーー君は、僕のために、こんなに綺麗な涙を流すんだね。」



有澤先生は、蕾の左手をゆっくりと握った。



指が絡み合い、有澤先生の手は、それは春のように…とても温かかった。



「……乗り越えよう。」



有澤先生の提案に顔を上げる。彼の瞳には温かい光が宿っていた。



「君となら……きっと大丈夫だと思う。」



予想外の展開に戸惑う。これは告白なのーー?



「先生…?」




有澤先生は、蕾の頬に触れる。有澤先生のその手を蕾は、上から重ねていた。




「あったかい…

先生の手は…

こんなにも温かかったんですね。」



次の瞬間、有澤先生の顔が近づいてくる。心臓が早鐘のように打ち始めた。

蕾は反射的に体が強ばる。


「先生っ…」


柔らかい感触が唇に触れる。


その温もりと優しさに思考が麻痺していく。


最初は反射的に引き離そうとしたが、やがて抵抗する力を失っていった。


彼の手が首の後ろに添えられ、さらに強く引き寄せられる。


「ん……」


小さな声が漏れた。羞恥と興奮が入り混じる不思議な感覚に包まれる。


これ以上の行為はできないことは分かっていた。


それでも彼との繋がりを欲してしまう自分に驚いた。


「 」


唇が離れた後、彼が耳元で囁くように告げる。

その言葉だけで全身が熱くなるのを感じた。


「私も……」答えかけたところで現実に引き戻される。


休憩室のドア越しに足音が聞こえてきたのだ。




「戻ろう。」




有澤先生は名残惜しげに体を離した。




「続きは……また、今度。」