会議室の重い扉を開けた瞬間、蕾は思わず息を呑んだ。
木製の長机がコの字型に配置され、すでに十数人のメンバーが集まっている。
照明が少し落とされた空間に浮かび上がる面々は、どこか緊張した面持ちだ。
そして—。
最前列の中央席に板垣先生の隣に腰掛けた有澤先生の姿が目に飛び込んできた。白衣と中に濃紺のスーツに身を包み、ノートパソコンを操作している。
こちらを見ない横顔だけでも十分すぎるほど整っていて、蕾の鼓動は高鳴った。
「桜井さん!こっちだよ」
隅の方で手を振る吉岡さんの姿を見つけて、ようやく我に返った。
足早に彼女の隣に腰掛けると、さりげなく有澤先生から視線を逸らす。
「久々に見たよね?先生」
吉岡さんが小声で囁いた。
「なんか違う感じしない?」
「うん……そうだね。」
素直に認めてしまう。
「すごく色っぽいっていうか、凛々しいというか……」
その時だった。
会議室前方のプロジェクタースクリーンが明るくなり、有澤先生が立ち上がった。
「みなさん、こんにちは。ご存知の通り、急性期病棟の有澤です。これから新病棟の運営について重要な話し合いを行います」
落ち着いた声音が響き渡る。その佇まいは確かに凛々しくもあり、同時に親しみやすさも感じさせる。
以前よりも洗練された印象を受けた。
「まずは新規メンバーの皆さんにお集まりいただきましたので、簡単な自己紹介をお願いします。
これから一緒に働く仲間ですので、お互いをよく知っておく必要があります」
先生の言葉に促されて最初のメンバーが順番に立ち上がる。
知らない顔も多かったが、中には以前同じ病棟で働いていた看護師もいた。
「では次の方、お願いします」
蕾の番になったのは中盤だった。
立ち上がると少し緊張する。視線を上げると有澤先生と目が合った。
優しく微笑みかけられて、さらに心拍数が上がる。



