​――遥斗 side――
数時間後。遥斗は、地方の小さな病院の待合室にいた。

​「意識は回復されました。ただ、しばらくは絶対安静です」

​医師の言葉に、遥斗は全身から力が抜けるような安堵を覚え、深く息を吐いた。
病室のドアを開ける。ベッドの上には、頭に包帯を巻いた桜が、かすかに微笑んでいた。

​「…遥斗。なんで、ここに。東京にいるはずじゃ…」

​意識が覚醒したばかりで、まだ状況を理解できていない桜が、かすれた声で尋ねる。

​「当たり前だろっ! 会えると思ったのに病院に運ばれたって連絡がきたんたぞ!だから会いにきたんだ! 一秒でも早く…!」

​遥斗は、桜のそばに座り、震える手で彼女の手を握った。

​「桜…正直、怖くて、死にそうだった。君を失うことが、俺の過去の弱さよりも、何よりも怖かった。
桜、愛してる。なによりも大切だ。もう曖昧なことはしない、一生そばにいて欲しい」

​彼の、焦燥と、涙で歪んだ顔。それは、これまで桜が見てきた「穏やかで優しい遥斗」ではなく、全てをさらけ出し、弱さと決意が同居した**「一人の、愛する男」**の顔だった。