――桜 side――
彼の沈黙がすべてを語っていた。
「好き」はあるのに、未来はない。
あの問いに、彼が答えなかった沈黙が、私の背中を押した。

​(このままでは、彼の優しさという名の檻の中で、ずっと**『今だけ』**を繰り返す。この曖昧な関係を断ち切るには、彼に依存する自分自身を、まず変えなければならない。)

​「未来が約束できないなら、私が動くしかない!」

​私は、社内で新規事業立ち上げのための短期の地方転勤に迷わず手を挙げた。このまま彼の優しさに甘え、曖昧な関係を続けることの方が、もっと怖かったからだ。

​「遥斗さんに、私の成長を見せたい。もう、庇護されるだけの**『桜ちゃん』じゃない**って」
​私は、一人の自立した女性として、彼と対等に話せる未来を選び取る覚悟を決めた。


​――遥斗 side――
PCの画面の文字がまったく頭に入ってこなかった。
彼は美佳との過去を完全に清算したが、桜への罪悪感からそれを伝える勇気が、まだ持てずにいた。

​そんなある夜、桜から電話があった。

​「遥斗さん。私、会社で転勤になったの。3ヶ月間、東京を離れる」

​遥斗の心臓は締め付けられた。彼女が自分から離れていく行動に見えたからだ。

​「……転勤? なんで、急に」
「私から志願した。自分の力を試したいの。もう誰かの陰にいるのは嫌なの」
「……そうか。分かった。頑張れ…」

​俺は、彼女を引き止めることも、「過去を終わらせた」という真実を話すこともできなかった。
結局、俺はまた、肝心なことから逃げたのだ。