​​――桜 side――
週末の夜、外は雪。駅前の交差点で信号を待っていた。
見覚えのある濃いグレーのコート。

「……遥斗さん？」

声に反応し、その人影がゆっくりと振り向いた。やはり、遥斗さんだった。

「……桜ちゃん」

遥斗さんの目が、驚きと安堵に揺れる。3週間ぶりの、突然の再会。

​どちらからともなく、雪が積もり始めた歩道を並んで歩き出す。

5分ほど歩き、人気のない通りに入ったとき、遥斗が立ち止まり、静かに言った。

​「……少し、いいかな。」
「…はい」

​桜の手が冷たく震えているのを見て、遥斗がそっとポケットの中に手を伸ばした。無言で繋がれた手。
繋がれた瞬間、私の心臓が激しく脈打った。この手は、七年間私だけを求め続けた孤独な手なのだと、彼の冷たい指先から伝わってくる。

​「桜ちゃん……」
「うん」

​繋いだ手の温もりを確かめるように、彼は絞り出すような声で言った。

「ほんとは、この3週間、ずっと会いたくて、おかしくなりそうだった」
「私も……ずっと、ずっと、会いたかった。あの夜から、遥斗さん以外考えられなかった」

​その本音を聞いた瞬間、私は彼の孤独を受け止めたいと強く思った。
気づけば、また彼の部屋の前に立っていた。

​「……入ってもいい？」

遥斗の目には、迷いと、それでも抗えない衝動が揺れていた。

​夜が明ける寸前、桜がそっと顔を上げた。

​「遥斗……私、今、すごく幸せだよ。でも、わかってる。このままじゃ、ずっと繰り返すだけだって」

​彼女は、初めて、あの頃できなかった呼び方で、俺の名前を呼んだ。

​「俺は……ごめん。それでもまだ、この関係を進める勇気が持てない」
「わかってる。今だけでいいっていったのは私だから…でも、ねぇ遥斗。お願い、今は抱きしめて」