「この荷物、何?」
「見ての通り。 
引っ越すんだよ」

「どうして?」
「どうしてって言われても・・・」

小林の真っ直ぐな視線に耐え切れずに目を逸らした。

「・・・学校辞めるって本当だったんだ?」
小林が呟いた。

「そうだよ。 
どうして知ってるんだ?」
「はっちゃんが教えてくれた」

「三橋さんが?
うちの学校って離退任式とかしないのにどうして知ってんだ?」
「伊達先生が教えてくれて、私にも伝えてやれって言われたって」

あの先生、何やってんだよ・・・・はあ。

だけど、こうやって小林と話をするもの最後になるんだろうな。

そう思うと、この時間がとてもありがたく思えた。

本当は会わないままで姿を消すつもりだったのに、会ってしまえば小林に会えたことが嬉しい。


「話があるんだろ? 
もうバレちゃったし、上がってコーヒーでも飲んで行けよ」
「え。あ、・・・うん‥‥‥」
小林が通りやすいように床に広げたごみ袋を隅に寄せた。

「ご覧の通り散らかってるから気を付けて」
と言って、小林に向かって手を伸ばす。
「転ぶといけないから。手に捕まって」

ゴミ袋をどかせたから、通れないほど床にものがあるわけではない。
けれど、リハビリ中の小林が万が一にも転んでしまっては一大事だ。

手を繋いで部屋に引き入れる。
ギュッと繋がれた手が温かい。

「ソファを発掘するからちょっと待って」

ソファに広げた衣類を段ボールに突っ込んで手を止める。
ああ。これは捨てる分だった。まあいいや。
と、再び丸めて段ボールにぶち込んで部屋の隅に置く。


「とりあえず、座って」

大人しく小林はソファに座る。
俺は彼女の腕を持って、
「低いから気を付けてね」
と、ゆっくりと座らせ、俺はキッチンに向かった。