数日後。


俺は小林に会いに病院に行った。

「こんにちはー」
病室に入ると、小林がいるはずのベットには誰も座っていなかった。

あれ?
と思っていると、背後から
「先生ッ!」
と明るい聞きなれた声が聞こえた。


松葉杖を突きながら立っている小林は、
「リハビリに行ってたの。 
退院の日も決まったんだよ」
と嬉しそうに笑った。

「そうか!おめでとう! 
よかったな」
と俺も笑った。

「な、少し散歩に行かないか?」
「うん。いいよ」

「松葉杖で行く?
車椅子の方がいいんじゃないか?」
「押してくれるなら車椅子にする」

「いいよ。まだ少し寒いから、上に何か着た方がいい」
「ちょっと待ってね」

小林は棚を開けてベンチコートを羽織って、毛糸の帽子を被り、ケンケンで車椅子まで行こうとした。
「ちょっと待って」

車椅子を小林の近くに運び、座るのを手伝った。
「ありがとう」
「どういたしまして」

「ほんじゃ、ま、行きますか?」
「うん!出発」


車椅子を押してエレベーターに乗る。

「窓から桜が咲いてるのが見えててね、お花見に行きたかったんだー」
「ああ。桜ももう満開だったな」

「先生、売店で何か買っていこうよ」
「いいよ」

「やった! おごり?」
「もちろん」

嬉しそうに話す小林を見おろす。
時折上を向いて俺の顔を見ながらはしゃぐ小林が可愛くて、愛おしくて、苦しくなる。


今日で小林に会うのも最後になる。


そう思うと胸が痛くなった。


その痛みを誤魔化すように小林の頭をポンポンと撫でた。

「え?何?」
と不思議そうに俺を見るので、つい、
「可愛いなと思って」
と言ってしまったら、一瞬で顔を赤くした。

俺はふふふと笑って、
「帽子についてるボンボンが」
と言うと、小林は怒った。

でもその耳がまだ赤かったから、
(可愛すぎるだろう・・・)
と、俺はもっと彼女を愛おしく思ってしまった。