勧められた椅子に座った三橋さんは少し緊張しているように見えた。

ここが数学準備室なら飲み物の一つでもふるまったのだけれど、あいにくここはただの3年の教室で、売店からも自販機からも遠い位置だ。

「そういえば、昨日、小林さんの所にお見舞いに行きましたよ。
元気に勉強してましたよ」
「・・・知ってます」

「まあ、そうですよね。 
三橋さんは親友ですからね」
「・・・先生は・・・」

「?」
「・・・先生は・・・・那奈の恋人なんですか?」

「え?」
「先生は・・・・先生は那奈と付き合ってるんですか?」

「・・・付き合っていません」
「本当に?」

「はい」
「よかった・・・」

「でも」
「?」

「・・・いえ。誤解が解けて良かったです」

でも、彼女のことが好きだ・・・とは言えなかった。

小林の傍にいたいと思ったし、支えになってやりたいと思っていたのに・・・。


嬉しそうに笑う三橋さんに
「三橋さんはそれを聞きたかったんですか?」
と尋ねた。

「はい。だって、昨日那奈とお母さんの話を聞いてたら、二人が内緒で付き合ってるのかと思っちゃって」
「ははは。そんなことあるわけないでしょう?」

「ですよね? 私ももう思ってたんです、那奈の片想いだって」
「・・・・」

「先生は大人の人ですもんね。
高校生なんて相手にするわけないと思ってたから、驚いちゃった」

「・・・大人、ですか」
「そうですよ。だって、先生って24歳でしょ?
私達より7つも年上だもん。
先生から見たら私たちなんて子供でしょ?」

「そうか。あなたたちは今、17歳ですもんね」
「はい」

「僕が中学入学した時、まだ小学生にもなってないのか」
「えー、すっごい年の差!」

「おじさん扱いですか?」
「そんなこと言ってないですよ!
7歳差でしょ? 
ほら、10年後なら全然アリだし」

「10年後か」
「うん。 
10年たったら34歳と27歳」

「気にならないかもしれませんね」
「でしょ?」

嬉しそうに話す三橋さんから視線を逸らした。
たった7つしか違わないのに随分歳をとったように思えた。
そしてその年の差は小林との間に高い壁ができたようで、現実から目を背けたくなった。