お母さんが慌ててシャーッっとカーテンを開けたけれど、そこには誰もいなかった。

急いで全開になっている出入り口まで走ったお母さんはドアに手を当てたままキョロキョロと廊下の左右を探した。

そのお母さんの表情と強張っている背中から、この状況がやばいのだとわかった。


すとんと、お母さんの肩が落ちた。
弟が廊下を見つめながら病室に入って来て、お母さんも弟について戻って来た。

ビニールの買い物袋をお母さんに渡しながら、
「今の、姉ちゃんの友達だろ?
もう帰ったの?」
と弟が尋ねた。

「那奈の友達って、やっぱりさっき・・・どうして友達って分かったの?」
「姉ちゃんと同じ制服着た女の子が3人走って出て行ったからさ。
え?なに、違った?」
「「・・・・・」」

どこから話を聞かれたのだろう?
私、浅倉先生の名前だしたっけ?
どうしよう・・・どうしよう・・・もしも、先生がクビとかになっちゃったら!!??

「お母さん、どうしよう!」
お母さんはぎゅっと私を抱きしめてポンポンと背中を撫でた。

「何か聞かれたらお見舞いに来てくださっただけだって言えばいいわ。
お母さんが誤解して問い詰められただけ。
付き合うわけない、過保護な親なんだって笑って言えばいいわ。
もし噂になったとしても何もないんだから、誤解なんてすぐに解けるわよ」
ゆっくりと優しい声で話すお母さんの声だったけれど、さっきの強張った様子を見たから、これが慰めだと悟った。

「うん…そうだね」
私も誤魔化すように返事をした。