弟がでて行ったのを見送って、お母さんは弟が座っていた椅子に腰かけた。

「那奈、ちゃんと説明して」
「ちゃんと説明も何も・・・・浅倉先生はただの先生で・・・」

「先生ってお仕事は忙しいはずよ」
恐い程の真剣な顔をして私を見つめ、話を続けた。

「担任でもバレー部の先生でもない人がこんな風に病室に来て・・・まさか本当にお付き合いしてるの?」

「もう!お母さんまで何言ってるのよ!先生は!‥‥先生は、あたしの膝のこと気にしてるんだよ・・・多分」
「どうして担任でもない浅倉先生が気にしなくちゃならないの?」

「先生も高校の時に膝壊してバスケ辞めなきゃいけなくなったんだって。
学校の帰りに膝がおかしくなっちゃって、道の端っこで座ってたら先生に会って、病院に行けって怒られて。
心配して病院まで送ってくれたりとかして・・・多分、先生も同じだったから心配してくれたんだと思う」

お母さんは真剣な顔をして私の説明を頷きながら聞いていた。
「そうだったの」
こくりと頷いたお母さんはそれまでの厳しい表情を緩めた。

「・・・で、那奈は先生のことが好きになっちゃったんだね」
「うん・・・って、もう!お母さん!」

「ごめん、ごめん。で、告白したの?」
「う・・・!」

「したんだね。で、付き合ってるの?」
「付き合ってないから!」

「断られたの?」
「うるさいな! そうだよ!フラれたわよ!」

「はあ・・・よかった」
「は?よくないしッ!」

「あはははは!ごめん、ごめん。
青春だねぇ」
「笑わないでよ!」

「はいはい、わかったわかった。・・・でもね」
ニコニコと笑ったお母さんは真面目な顔にもどった。

それまでのように恐い程の真剣な表情ではなかったけれど、大切な話をする時の顔をした。

「先生は男の人で、ここは病院とはいえベッドの上なの。
那奈はジャージ姿の色気のない姿だし、先生もそんな気はないとは思うけど、これを見た周りの人はいろんな憶測をしちゃうと思うよ」
「いろんな憶測って何?」

「分かるでしょ?」
「先生と付き合ってるんじゃないかとか、やらしいことしてるんじゃないかってこと?」
「そう」
お母さんは頷いた。

馬鹿馬鹿しい!
先生は私のこと異性として見ていない!
私はもうフラれてるんだし!

「はっ!そんなことあるわけないしっ!言いたい人は言えばいいし!」
「お母さんたちは話を聞いたからそんなことないって分かってるわよ。
でも、最初は勘ぐったわよ。
母親ですらそうなんだもの。
言いたい人が好き勝手言った結果、それを信じてしまう人もいると思うよ。
そしたら困るのは先生なのよ?」
「・・・・・」

「先生、病室まで来てくださって勉強を教えてくださるくらいだもの、熱血教師ってゆうやつなんでしょう」

んん?・・・・どちらかというと逆っぽいけど・・・。

「そんなやる気に満ちた先生なのに、学校をクビになってもいいの?」
「クビ?」

「そう。私立の学校の先生でしょ?
教師と生徒が付き合ってるって噂になったりしたら、先生、学校をやめることになってしまうわよ」
え?

「ええええ!?」
「わ、ちょっと」
「押さないでよっ

バタバタバタバタ!

カーテンの向こうで声がした!
誰かいる!!??

お母さんがハッとした顔をして、私と目を合わせた。