仕事帰り。

家の近くのスーパーでいつものように出来合いのお弁当を買う。

唐揚げ弁当と酢豚弁当で悩んでいると、
「先生ー」
という声が聞こえた。

こんなところで呼ばれる?と不振に思いながらも、きょろきょろと周りを見渡す…とそこには、スポーツドリンクをくれた小林さんがにこにこと立っていた。

「小林さん。どうして君がこんなところに?」
「え?別に高校生がスーパーにいてもおかしくないよね?」

「まあ、そうだけど・・・コホン。 
学校から遠いですし。 
小林さんは寮生ではないのですか?」
「ああ。そういうことね」
小林さんはうんうんと頷いた。

「私、自宅生だよ。 
バレーの特待生で入学はしたけど、自宅から通える距離だし」
「そうだったんですね」

「それにしても・・・」
小林さんは俺の買い物籠の中を覗き込んで
「ビールとお弁当しか入ってない」
とつぶやいた。

「まあ、独身男性の夕食なんてこんなものですよ。小林さんは・・・」
とお返しに買い物籠を見ると、野菜や肉、魚、牛乳などしっかりとした食材がきれいに入れられていた。

「・・・」
お菓子やジュースが入っていると思ったので、意外な品々に驚いてしまう。

「私、料理が得意なんですよ」
「得意・・・?」

部活帰りに買って帰っている様子だが、女子高生が買う品物にしては少し気になるものばかりだ。
ご家族に何かあったのだろうか?

「両親は共働きで帰りが遅いの。 
だから私がごはん係なの」
そういわれると、籠の中身に納得する。

「それなら寮に入った方が楽なのではないですか?」
「弟の分のご飯も作らなきゃだし、私が寮に入ったら弟が一人になっちゃうから」

「そうですか・・・。すみません。込み入ったことを窺ってしまいました」
「平気よ!それより、先生。うちにご飯食べにくる?」

「は?」
「なんか、揚げ物しか入ってないよ、そのお弁当」

「よく見てください。端っこにひじきが入っています」
「少なっ!」

「そりゃ、唐揚げ弁当ですから。
ひじきはおまけですよ」

それから二人で話しながらレジに向かう。