静かな病室に、小林のシャーペンの音が響く。
廊下から聞こえるカートの音や人の話し声が微かに聞こえた。

小林のもこもことした薄紫のパーカー。
その袖の先から見える華奢な指先。
ペンの持ち方がきれいだ。
耳にかけた髪はまっすぐで艶々で、少し前に撫でた自分の右手の感触を思い出したくてグッパッと手を動かした。
ちらっと小林を見た。

・・・・・・・・・。

やばい!!俺、めちゃくちゃ小林のこと好きじゃないか!!
まるで高校生にもどったみたいにドキドキしてるぞ!!

落ち着け、俺!!
いくら好きだと言っても、付き合ってるわけじゃない!

そばにいて支えてやりたいとか思っても、相手はまだ高校生!
未成年!
病室!
ベッドの上!・・・・・いやいやいやいや、何考えてんだ!
ダメだろ、俺!

そんなこと考えててはいかーーーん!!
つーか、いかんってなんだ!?

そんなことってどんなことだよ!?ってそんなことだろ!!


視線除けの為に半分閉じていたカーテンを全開にした。
隣の女性のベッドの周りにはお見舞いに来た若夫婦3人が一斉にこちらを振り返った。
まだ未就学児らしき二人の子供はお孫さんなのだろう。

カーテンを開け閉めして遊ぶ二人をたしなめながら、ペコリとお辞儀をされ、お辞儀をかえした。

「騒がしくてごめんなさいね。
ほら、あっちゃんカーテンしめて」
「先生、何してんの?」
振り返ると小林がこちらを見ていた。

「え?あ、いや・・・」
「これからお見舞いの人が増えるからカーテン閉めてね」
「あー・・・そうなんだけど・・・まぁ」

ぶつぶつ言いながら俺たち二人が隠れるくらいまでカーテンを閉めた。

少し開けておくのは念のためのマナーだった。

「ぶつぶつ言ってないでちゃんと見ててね」
「はいはい。あ。ここ、計算間違ってる」

「ええ!?どこ?」
「ここ」

「どおりで答えが割り切れないと思った」
「計算は間違ってるけど、解き方はあってるからそのまま解いてごらん」
「はーい」

カリカリカリカリ。
再びシャーペンがノートを滑る音が聞こえてきた。